『らせんを操るゲノム編集』から学ぶ:ゲノムワールド ③DNA複製工場の見学

らせんの探求

DNA塩基配列の合成と伝達

今回は、ゲノムの本体となっているDNAの塩基配列がどのように合成され、子孫へ引き継がれていくかを説明します。

①ゲノムは全ての源であるでも説明したように、全ての生物の構造的、機能的な基本単位は細胞です。一つの個体を構成する細胞の数は生物によって異なりますが、いずれの場合も「細胞は無から生じることはなく、全ての細胞は細胞から作られる」という共通した考え方があります。この考え方を「細胞説」と呼びます*1。

「細胞は細胞から作られる」というのは、各細胞が自分自身を「複製(コピー)する」という意味です。真核生物の細胞は自らのゲノムを、染色体を媒体として保存しており、その本体はDNAの塩基配列です。そのため、細胞を複製することの本質は、ゲノムの本体であるDNAを複製することになります。全ての細胞は自身のDNAを複製して分裂することにより、自らと同じ構造や機能を持った細胞のコピーを新たに生み出しているのです。この過程を「細胞分裂」と呼びます。

ここでは下図を用いて、細胞が分裂する際の仕組みについて説明します。

 

細胞周期とDNAの複製
図) 細胞周期と DNA の複製(Created with BioRender.com)

この図に示すように、細胞は「細胞周期」と呼ばれる一連の期間の中で自らのコピーを作り、二つの細胞に分裂します。細胞周期は主に次の四つのフェーズから構成されています。

●G1期: 一連の細胞周期に必要なエネルギーが足りているかどうかをチェックする

●S期: DNAを複製する

●G2期: DNAが正確に複製されたかどうかをチェックする

●M期: 細胞を二つに分裂させる

この四つのフェーズのうち細胞周期のメインとなるのは、DNAを複製するS期です。S期では、DNAの二重らせん構造がほどかれて1本ずつの長い鎖になり、それぞれの鎖を鋳型として、その鎖に相補的な鎖が新たに合成されます。合成された鎖は鋳型の鎖とペアとなって再度二重らせん構造を形成し、複製が完了します。このように、DNAの二本鎖の片方を鋳型としてもう片方を新たに作り上げる複製の仕組みを「半保存的複製」と呼びます。S期で半保存的複製を行った細胞は、G2期でDNAが正しく複製されたかをチェックしたのち、M期で二つの細胞に分裂します。この一連の流れが細胞周期の一サイクルであり、一サイクルの細胞周期を経ると一つの細胞が二つに分裂するのです*2。

真核生物は、受精卵という一つの細胞に始まり、上記の細胞周期を繰り返すことによって全身の細胞が全て同じDNAを持つようになります。生殖細胞も体細胞も、同じ受精卵のDNAが半保存的複製によって生み出されているため、全て同じDNAを持っています。父親の精子と母親の卵子が受精することで、生殖細胞が持つDNAは子孫へと引き継がれ、以後これらの繰り返しによってDNAは保存、伝達されていくのです。

note

真核生物は受精卵から始まり、細胞周期によって DNA の「半保存的複製」を繰り返すことによって全身の細胞が同一の DNA を持っている。また、受精によって生殖細胞が持つ DNA は子孫へと引き継がれていく。

 

*1 細胞説からは「あらゆる生物は既に存在している生物からしか誕生しない」という考え方が演繹的に得られます。

*2 細胞周期のフェーズには、ここで挙げた他に「G0 期」という細胞周期を一時休止させるフェーズがあります。
 
 
次回は、DNAの延期配列が持つ情報の意について説明します。

 

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