2025年8月のX(Twitter)紹介ゲノム編集論文&ニュース

株式会社セツロテックのX(旧Twitter)アカウントでは、ゲノム編集に関する論文やニュースを、弊社メンバーが独断と偏見でピックアップしてつぶやいています。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けしております。ゲノム編集技術の社会実装を目指す大学発ベンチャーとして、皆さんの新技術への理解増進の一助になれば幸いです。ぜひ、フォローを!ここでは、2025年8月のポストで紹介した内容を再編成して掲載いたします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、会社としての正式な見解では無く、担当者個人の理解によるものです。
Index
- より良いドナーテンプレートをAIが考えてくれる
- 人工知能によって生成された遺伝子エディター
- レゴブロックで作ったゲノム編集細胞作製自律型ロボットシステム
- ゲノム編集を助けてくれる「相棒」エージェント
- マース社がカカオのゲノム編集研究に乗り出す
- ゲノム編集膵島細胞による糖尿病治療の可能性
- ゲノム編集による脳疾患治療の可能性
- 世界初のCRISPRゲノム編集ブタ肺のヒト異種移植
- ゲノム編集ミズアブで廃棄物を価値あるバイオマスへ変換する
- CRISPR-Cas9の活性をOFFにしてオフターゲットを防ぐ
- なぜ自然界でアルビノの動物はまれなのか?
- ゲノム編集×AIロボットで育種を加速化する
- ゲノム編集酵母でミツバチの「完全食」サプリメントを作成する
- ゲノム編集による乳児の希少遺伝性疾患治療の可能性
より良いドナーテンプレートをAIが考えてくれる
Precise, predictable genome integrations by deep-learning-assisted design of microhomology-based templatesNaert et al., Nat Biotechnol. 2025 Aug 12 (Online ahead of print).
ゲノムDNAの2本鎖切断後に、MMEJ修復経路を誘導するためのドナーテンプレートの設計戦略を、深層学習モデルで会得。最適化されたDNA修復テンプレートは、HDRがほとんど機能してしない細胞環境においても、スカーレスな点変異の導入を容易にした。Nature Biotechnology誌。
人工知能によって生成された遺伝子エディター
Design of highly functional genome editors by modelling CRISPR–Cas sequences Ruffolo et al., Nature. 2025 Jul 30 (Online ahead of print).
人工知能(生成タンパク質言語モデル)によって、進化的制約を回避して生成された遺伝子エディターが登場。OpenCRISPR-1は、SpCas9とは400を超える変異がありながら、同等のオンターゲット活性を持ち、かつオフターゲットの切断ははるかに少ないという特徴を持つ。Nature誌。
レゴブロックで作ったゲノム編集細胞作製自律型ロボットシステム
CRISPR.BOT an autonomous platform for streamlined genetic engineering and molecular biology applications Erkek et al., Sci Rep. 2025 Aug 6;15(1):28699.
レゴマインドストームで作ったゲノム編集細胞作製の自律型ロボットシステム「CRISPR. BOT」。市販品と比較して最大10倍のコスト削減を実現しながら、ヒト細胞への遺伝子導入を自動化し、GFP発現細胞を作製できた。DIYの精神が遺伝子改変を加速させる。Scientific Reports誌。
ゲノム編集を助けてくれる「相棒」エージェント
CRISPR-GPT for agentic automation of gene-editing experiments Qu et al., Nat Biomed Eng. 2025 Jul 30 (Online ahead of print).
CRISPRゲノム編集タスクを実行する人間のユーザーと対話し、推論するように設計されたAIエージェント「CRISPR-GPT」。科学文献、公開データベース、そして分野の専門家による議論のデータを用いて学習させた大規模言語モデルに基づく。Nature Biomedical Engineering誌。
マース社がカカオのゲノム編集研究に乗り出す
M&M’s Maker Turns to Gene Editing in Bid to Secure Cocoa Supply Bloomberg 2025年8月6日
「M&M’s」などのブランドで有名な米Mars社が、安定したサプライチェーンの確立に向けて、カカオの精密育種に乗り出す。遺伝子編集企業のPairwise社とライセンス契約を締結し、CRISPRゲノム編集で病害抵抗力や気候耐性の向上を狙うとのこと。Bloombergのニュース記事。
ゲノム編集膵島細胞による糖尿病治療の可能性
Survival of Transplanted Allogeneic Beta Cells with No Immunosuppression Carlsson et al., N Engl J Med. 2025 Sep 4;393(9):887-894.
CRISPR-Cas12bで拒絶反応を回避するように遺伝子改変したヒト膵島細胞を1型糖尿病患者に移植したところ、免疫抑制薬を投与することなく12週間生存した。概念実証の段階だが、副作用のある免疫抑制薬が不要になるのは大きなメリット。The New England Journal of Medicine誌。
ゲノム編集による脳疾患治療の可能性
Brain editing now ‘closer to reality’: the gene-altering tools tackling deadly disorders Ledford, Nature. 2025 Aug;644(8078):847-848.
ヒトの脳疾患に対するゲノム編集治療に向けた試みをまとめたNature誌のニュース記事。7月にマウス実験での小児交代性片麻痺の疾患変異の修復が報告されたほか、ハンチントン病、フリードライヒ運動失調症、レット症候群などに対する研究も進む。
世界初のCRISPRゲノム編集ブタ肺のヒト異種移植
In a first, pig lung survives and functions—briefly—in a person Science 2025年8月25日
世界初のCRISPRゲノム編集ブタの肺のヒト異種移植において「一定の成功」があったとのニュース記事。複数の遺伝子を改変したブタの肺を脳死患者に移植したところ、超急性拒絶反応は回避できたが、9日間だけの機能に留まった。しかし、前進はしている。Science誌。
ゲノム編集ミズアブで廃棄物を価値あるバイオマスへ変換する
Truncated Higiant enhances the bioconversion ability of Hermetia illucens Wang et al., Commun Biol. 2025 Aug 6;8(1):1164.
ミズアブ(black soldier fly)のCRISPR-Cas9ゲノム編集で、食品廃棄物の生物変換効率を13%向上させることに成功。giant遺伝子のノックアウトで、体が大きく繁殖能力が高い個体を得ることができた。有機廃棄物を価値あるバイオマスへ変換する。Communications Biology誌。
CRISPR-Cas9の活性をOFFにしてオフターゲットを防ぐ
Protective antigen–mediated delivery of an anti-CRISPR protein for precision genome editing Vera et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2025 Aug 12;122(32):e2426960122.
ゲノム編集後にCRISPR-Cas9の活性を遮断できるシステム「LFN-Acr/PA」を開発。炭疽菌毒素由来のPAがエンドソーム膜に穴を形成することで、ヒト細胞に抗CRISPRタンパク質を効率的に送達する。オフターゲット効果を低減し、遺伝子治療の臨床安全性の向上につなげる。PNAS誌。
なぜ自然界でアルビノの動物はまれなのか?
Knocking out genes to reveal drivers of natural selection on phenotypic traits: a study of the fitness consequences of albinism Funk et al., Proc Biol Sci. 2025 Aug;292(2053):20251458.
自然界でアルビノの動物がまれなのはなぜか?目立つからだけではないようだ。CRISPR-Cas9ゲノム編集で作製したアルビノヒキガエルは、成体での成長が遅く、採餌成功率も低く、捕食者がいなくても野生型との競争において不利であった。Proceedings of the Royal Society B誌。
ゲノム編集×AIロボットで育種を加速化する
Engineering crop flower morphology facilitates robotization of cross-pollination and speed breeding Xie et al., Cell. 2025 Aug 7:S0092-8674(25)00840-2.
ゲノム編集でめしべの高さを機械作業向けに改良し、さらに、この表現型を自動認識するAI制御の「ロボットブリーダー」によって、24時間体制で受粉作業を実施。従来、自家受粉を防ぐ除雄作業に手間がかかっていたトマトやダイズなどで、迅速な品種改良が期待できる。Cell誌。
ゲノム編集酵母でミツバチの「完全食」サプリメントを作成する
Engineered yeast provides rare but essential pollen sterols for honeybees Moore et al., Nature. 2025 Aug 20 (Online ahead of print).
CRISPRゲノム編集で、ミツバチにとって必須の6種類の花粉ステロールを産生する遺伝子改変酵母を作製。この酵母を混ぜたえさを与えると、ミツバチのコロニーは花粉がなくても幼虫を育てることができるようになった。花粉を集める働きバチの「働き方改革」になる?Nature誌。
ゲノム編集による乳児の希少遺伝性疾患治療の可能性
A baby benefits from personalized gene editing in the clinic Sepp-Lorenzino, Nature. 2025 Aug;644(8078):884-885.
塩基編集による希少遺伝性疾患のカスタマイズ治療の報告を紹介するNature誌のニュース記事。生後間もなくのゲノム解析で特定された遺伝子変異を修正するように、パーソナライズされた塩基編集ツールを脂質ナノ粒子を介して乳児に送達することで、臨床的な改善につながった。

