2025年7月のX(Twitter)紹介ゲノム編集論文&ニュース

株式会社セツロテックのX(旧Twitter)アカウントでは、ゲノム編集に関する論文やニュースを、弊社メンバーが独断と偏見でピックアップしてつぶやいています。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けしております。ゲノム編集技術の社会実装を目指す大学発ベンチャーとして、皆さんの新技術への理解増進の一助になれば幸いです。ぜひ、フォローを!ここでは、2025年7月のポストで紹介した内容を再編成して掲載いたします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、会社としての正式な見解では無く、担当者個人の理解によるものです。
Index
鳥類ではマイクロRNAが性染色体連鎖遺伝子の発現を均等化する
A male-essential miRNA is key for avian sex chromosome dosage compensationFallahshahroudi et al., Nature. 2025 Jul 16 (Online ahead of print).
鳥類では、Z染色体上のマイクロRNAが、性染色体の組み合わせの違いによるZ連鎖遺伝子発現のバランスをとっている(遺伝子量補償)。CRISPR-Cas9システムによるニワトリゲノム編集で、miR-2954の両方のコピーを欠損したオス(ZZ)の胚は、発生に失敗した。Nature誌。
バイオ医薬品を自分で作って自分で使う
Targeted in vivo gene integration of a secretion-enabled GLP-1 receptor agonist reverses diet-induced non-genetic obesity and pre-diabetes Hirose et al., Commun Med (Lond). 2025 Jul 9;5(1):269.
バイオ医薬品を患者の生体内で生産させる戦略。単回投与によるin vivoゲノム編集で、Exendin-4(2型糖尿病に対する治療薬)をコードする配列をアルブミン遺伝子座にノックインしたマウスでは、顕著な副作用なく体重と血糖値が長期的に改善した。Communications Medicine誌。
ドイツメディアにおける新ゲノム技術に対する論調の変化
New Genetic Technologies (NGTs) as Mirrored by Mass Media – Topics and Frames of Genetic Editing in German Press Kossmann et al., Food Ethics. 2025 June 10;10(16).
メディアにおける、CRISPR-Casゲノム編集を含むNew Genetic Technologies(NGTs)の描写は、特に農業の文脈において、より好意的な方向にシフトしていることが示唆されるとのこと。2012年から2023年にかけてのドイツの主要4紙を対象とした分析。Food Ethics誌。
ヒト免疫系の特定の遺伝子発現がほぼ完全に消失したヒト化マウス
Establishment of a reverse genetics system for studying human immune functions in mice Pal et al., Sci Adv. 2025 Jul 11;11(28):eadu1561.
ヒト臍帯血由来CD34+細胞の効率的なCRISPR-Cas9ゲノム編集の方法を確立し、これを免疫不全マウスに移植してヒト化マウスモデルを作製した。ヒト免疫系における特定遺伝子欠損の機能的な影響を再現できることで、さらなる逆遺伝学的な研究が可能となる。Science Advances誌。
エンハンサーの届く距離を拡張するエクステンダー配列
Range extender mediates long-distance enhancer activity Bower et al., Nature. 2025 Jul;643(8072):830-838.
長距離のエンハンサー–プロモーター相互作用を可能にする配列を同定。CRISPR-Cas9ノックインによるin vivoマウス肢エンハンサー置換実験で、短距離エンハンサーに“Range Extender”エレメントを追加すると、従来届かなかった距離の遺伝子活性化を誘導できた。Science誌。
蚊のアミノ酸を1つ変化させるだけでマラリアの伝播は阻止される
Driving a protective allele of the mosquito FREP1 gene to combat malaria Li et al., Nature. 2025 Jul 23 (Online ahead of print).
CRISPRゲノム編集で蚊のアミノ酸を1つ変化させると、マラリアの伝播を阻止できる。ハマダラカのFREP1遺伝子のL224→Q224置換で、マラリア寄生虫が唾液腺に到達することが阻止され、これを連鎖アレルドライブシステムで個体群に効率的に導入することに成功した。Nature誌。
CRISPR-Cas12aによる遺伝子レベルのアンチ・ドーピング分析
High-throughput multiplexed gene and cell doping analysis through CRISPR-Cas12a system integrated with blood direct PCR Yi et al., Sci Adv. 2025 Jul 11;11(28):eadv7234.
CRISPR-Cas12aシステムによる「遺伝子・細胞ドーピング検出法」を開発。遺伝子療法や細胞療法を含め、従来のタンパク質レベルのアンチ・ドーピング分析が適用できない潜在的な新興手法に対応するため、今後は遺伝子レベルの分析が不可欠となってくる。Science Advances誌。
AI&バイオテクノロジーで品種改良におけるパラダイムシフトを実現する
Integrated biotechnological and AI innovations for crop improvement Li et al., Nature. 2025 Jul;643(8073):925-937.
作物の品種改良において、いかに人工知能とバイオテクノロジーを組み合わせるか?持続可能な形で世界の食糧安全保障に貢献するために、ゲノム編集技術などを活用した作物改良におけるパラダイムシフトの実現について展望する。Nature誌のレビュー論文。
専門用語の多用は人々の理解につながるか?
Scientific jargon can be ‘satisfying’ — but misleading Rogers & Shulman, Nature. 2025 Jul;643(8073):916-917.
科学的なジャーゴン(専門用語)の使用は読者の理解につながるか?専門用語は、説明の信憑性を高めて受け入れやすくするが、読み手・聞き手の本質的な理解を妨げる可能性があると指摘する。バイオスタートアップにとっては示唆のあるコラム。Nature誌のNews and Views。
神経疾患に対する個別化遺伝子編集治療の可能性
In vivo prime editing rescues alternating hemiplegia of childhood in mice Sousa et al., Cell. 2025 Jul 15:S0092-8674(25)00740-8 (Online ahead of print).
小児交互性片麻痺モデルマウスにおけるin vivoプライム編集で、ATP1A3遺伝子の2つの変異(D801NとE815K)を修復すると、ATPase活性が回復し、運動障害と認知障害が改善され、マウスの寿命が延びた。神経疾患に対する個別化遺伝子編集の可能性を示唆する。Cell誌。
CRISPR-Cas12aを利用しナス科作物の病気を迅速診断
Detection of tomato brown rugose fruit virus through CRISPR-Cas12a and CRISPR-Cas9 systems Besati et al., Sci Rep. 2025 Jul 15;15(1):25638.
ナス科作物での「パンデミック」を引き起こしているTomato brown rugose fruit virusに対して、CRISPR-Cas12aのコラテラル切断活性を利用した迅速な検出手法を開発。圃場で採取したトマトのサンプルから、約1時間でウイルスのRNAゲノムを検出できた。Scientific Reports誌。

