2024年3月のX(Twitter)紹介ゲノム編集論文&ニュース
株式会社セツロテックのX(Twitter)アカウントでは、ゲノム編集に関する論文やニュースを、弊社メンバーが独断と偏見でピックアップしてつぶやいています。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けしております。ゲノム編集技術の社会実装を目指す大学発ベンチャーとして、皆さんの新技術への理解増進の一助になれば幸いです。ぜひ、フォローを!ここでは、2024年3月のポストで紹介した内容を再編成して掲載いたします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、会社としての正式な見解では無く、担当者個人の理解によるものです。
Index
- 1. Cas12aとMAD7による農作物ゲノム編集についてのレビュー
- 2. ゲノム編集因子の非ウイルス的な送達手段についてのレビュー
- 3. dCas13を用いた超特異的な遺伝子ノックダウン法を開発
- 4. TBXT遺伝子イントロンへのレトロポゾンの挿入がヒトの尻尾を短くした
- 5. 近年のCRISPRゲノム編集についてのレビュー
- 6. 日本でもゲノム編集ブタの腎臓をサルに移植する試験がスタート
- 7. 米でPRRSV抵抗性ゲノム編集ブタの審査が進む
- 8. ゲノム編集でアレルゲンを除去した鶏卵の開発が臨床研究へ
- 9. 「瓢箪から駒」で環境ストレスに強いイネを作出する
- 10. パンダの色を「白黒」つける遺伝子を同定
- 11. イネの分けつ数と粒数を増やす遺伝子を同定
- 12. 発光キノコの生物発光経路に他の植物由来の酵素を埋め込む
- 13. チョウの翅の模様はノンコーディングRNAによって決まる
- 14. イモリにおける「超再生」現象の発見
- 15. ゲノム編集ブタの腎臓を、脳死患者以外に初めて移植
- 16. アフリカ大陸でのゲノム編集技術を考える
- 17. マウスの胴体の長さを決めるDNA領域を発見
- 18. グリア細胞の遺伝子ノックアウトで目的のない反復行動が増加した
1. Cas12aとMAD7による農作物ゲノム編集についてのレビュー
Cas12a and MAD7, genome editing tools for breeding
Hozumi et al., Breeding Science. 2024
https://doi.org/10.1270/jsbbs.23049
セツロテックプレスリリース https://www.setsurotech.com/official/9034/
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セツロテックによるプレスリリース「Cas9だけじゃない!農業分野でどんどん拡がるゲノム編集技術~品種改良で活用されるゲノム編集因子についての総説論文を発表~」の紹介ポストをリポスト。セツロテック研究員による論文。
2. ゲノム編集因子の非ウイルス的な送達手段についてのレビュー
Targeted nonviral delivery of genome editors in vivo
Tsuchida et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Mar 12;121(11):e2307796121.
https://doi.org/10.1073/pnas.2307796121
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CRISPR/Cas9ゲノム編集技術の開発でノーベル化学賞を受賞した Doudna さんによる、非ウイルス的な方法でゲノム編集因子を生体内にどう送達するか?についての総説論文。医療利用を目指すうえでは「お届け方法」がとっても大事。PNAS誌。
3. dCas13を用いた超特異的な遺伝子ノックダウン法を開発
dCas13-mediated translational repression for accurate gene silencing in mammalian cells
Apostolopoulos et al., Nat Commun. 2024 Mar 11;15(1):2205
https://doi.org/10.1038/s41467-024-46412-7
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CRISPRシステムに「δ(デルタ)」が登場。Cas13の持つコラテラル活性が機能しないようにdCas13を利用。mRNAを分解するのではなく、標的遺伝子の開始コドン近傍への結合による翻訳阻害によって、特異的にノックダウンさせる手法。理研、東京大学らのチーム。Nature Communications誌。
4. TBXT遺伝子イントロンへのレトロポゾンの挿入がヒトの尻尾を短くした
On the genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes
Xia et al., Nature. 2024 Feb 28;626(8001):1042-1048
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07095-8
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霊長類のゲノムを相互比較し、有尾のサルにはないが類人猿にのみに存在する、Tbxt遺伝子イントロンへのAluYトランスポゾン挿入→エクソン6のスキップを同定。CRISPR/Cas9ゲノム編集でTbxtエクソン6スキップさせたモデルマウスでは、尻尾が欠損または短くなった。Nature誌。
5. 近年のCRISPRゲノム編集についてのレビュー
Past, present, and future of CRISPR genome editing technologies
Pacesa et al., Cell. 2024 Feb 29;187(5):1076-1100
https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.01.042
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2012年にScience誌に発表されたCRISPR/Cas9論文の筆頭著者らによる、CRISPRゲノム編集についてのレビュー論文。研究および治療の両分野における現状について論じ、その制約となっている限界と、それに対処するために近年開発された技術革新に焦点を当てる。Cell誌。
6. 日本でもゲノム編集ブタの腎臓をサルに移植する試験がスタート
ブタの腎臓をサルに移植 遺伝子改変し今夏にも―京都府立医大など
時事通信ニュース 2024年3月6日
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030600918
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記事紹介ポストをリポストのみ
7. 米でPRRSV抵抗性ゲノム編集ブタの審査が進む
Meat from gene-edited pigs could hit the market
Cohen, Science. 2024 Mar;383(6686):940-941
https://doi.org/10.1126/science.ado9328
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英Genus社が開発したPRRSV抵抗性ゲノム編集ブタの審査が進みつつあり、食用利用として、年内のFDA承認が期待されるとのこと。ブタ側でウイルスの受容体となるCD163を機能欠損させている(これはこれまで自然界では観察されていない変異)。Science誌のニュース記事。
8. ゲノム編集でアレルゲンを除去した鶏卵の開発が臨床研究へ
キユーピーと広島大のゲノム編集鶏卵、アレルギーの小児を対象に臨床研究へ
日経バイオテク 2024年3月6日
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/24/03/05/11660/
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記事紹介ポストをリポストのみ
9. 「瓢箪から駒」で環境ストレスに強いイネを作出する
Truncation of the calmodulin binding domain in rice glutamate decarboxylase 4 (OsGAD4) leads to accumulation of γ-aminobutyric acid and confers abiotic stress tolerance in rice seedlings
Akter et al., Mol Breed. 2024 Feb 29;44(3):21
https://doi.org/10.1007/s11032-024-01460-1
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CRISPRゲノム編集技術により、GABAを増量させたイネを作出しようとしたところ、100粒あたりのGABA含量が野生型の約9倍になったのに加え、副次的に高い環境ストレス耐性も獲得できたとのこと。OsGAD4遺伝子の自己抑制機能を除去。島根大学チーム。Molecular Breeding誌。
10. パンダの色を「白黒」つける遺伝子を同定
Taking a color photo: A homozygous 25-bp deletion in Bace2 may cause brown-and-white coat color in giant pandas
Guan et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Mar 12;121(11):e2317430121
https://doi.org/10.1073/pnas.2317430121
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中国陝西省の秦嶺山脈にわずかに生息する「色違い」ジャイアントパンダ(黒→茶)の原因となる遺伝子を同定。Bace2遺伝子の第1エクソンにおけるホモ接合性の25bp欠失。同様の遺伝子配列の変化を、CRISPR/Casゲノム編集でマウスに再現すると、淡褐色の毛色を示した。PNAS誌。
11. イネの分けつ数と粒数を増やす遺伝子を同定
Enhancing rice panicle branching and grain yield through tissue-specific brassinosteroid inhibition
Zhang et al., Science. 2024 Mar 8;383(6687):eadk8838
https://doi.org/10.1126/science.adk8838
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Clustered-spikelet rice(CL)という1つの位置から複数の粒を生じるイネの品種を調べ、分けつと粒数増加の原因が、組織特異的なブラシノステロイド異化遺伝子の活性化であることを同定。この遺伝子をCRISPRゲノム編集でノックアウトするとnon-CL表現型となった。Science誌。
12. 発光キノコの生物発光経路に他の植物由来の酵素を埋め込む
A hybrid pathway for self-sustained luminescence
Palkina et al., Sci Adv. 2024 Mar 8;10(10):eadk1992
https://doi.org/10.1126/sciadv.adk1992
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活性のために翻訳後修飾が必要な発光キノコの遺伝子の代わりとして、様々な植物由来のヒスピジン合成酵素を探索。植物と真菌の遺伝子を組み合わせたハイブリッド生物発光経路にすることで、よりコンパクトで、より多くの生物種に導入できるように。Science Advances誌。
13. チョウの翅の模様はノンコーディングRNAによって決まる
Surprise RNA paints colorful patterns on butterfly wings
Pennisi, Science. 2024 Mar 8;383(6687):1039-1040
https://doi.org/10.1126/science.adp0471
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オークションサイトebayで、珍しい象牙色のドクチョウの昆虫標本を見かけたことがきっかけになった研究。まだプレプリントだが、ロングノンコーディングRNA(lncRNA)が動物の目に見える形質の進化と関連付けられた初めての例。Science誌のニュース記事。
14. イモリにおける「超再生」現象の発見
Fgf10 mutant newts regenerate normal hindlimbs despite severe developmental defects
Suzuki et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Mar 12;121(11):e2314911121
https://doi.org/10.1073/pnas.2314911121
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CRISPRゲノム編集によるFGF10遺伝子のノックアウトにより、先天的に後肢形成不全のイモリ個体においても、後肢を切断すると「正常な」後肢が再生されることを新たに発見。再生のための遺伝子プログラムが別に存在することを示唆。基礎生物学研究所らのチーム。PNAS誌。
15. ゲノム編集ブタの腎臓を、脳死患者以外に初めて移植
ブタの腎臓、患者に世界で初移植 米病院 臓器不足緩和へ「頼みの綱」
産経ニュース 2024年3月22日
https://www.sankei.com/article/20240322-4W5C2HMB65LGZGEO7JAQDDQARA/
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記事紹介ポストをリポストのみ。
16. アフリカ大陸でのゲノム編集技術を考える
Making genome editing a success story in Africa
Abkallo et al., Nat Biotechnol. 2024 Mar 19 (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1038/s41587-024-02187-2
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アフリカ大陸でのゲノム編集技術の恩恵は、他地域と比べて大きな遅れがあるが、一方、アフリカ発の研究開発と研究者育成が進めば、現地の農業・畜産・公衆衛生におけるインパクトは極めて大きいことを指摘する。Fig.2にアフリカ各国の規制状況。Nature Biotechnology誌。
17. マウスの胴体の長さを決めるDNA領域を発見
Functional analysis of a first hindlimb positioning enhancer via Gdf11 expression
Saito et al., Front Cell Dev Biol. 2024 Mar 15:12:1302141
https://doi.org/10.3389/fcell.2024.1302141
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プレスリリース紹介ポストをリポストのみ。弊社CTOの竹本らの論文。
18. グリア細胞の遺伝子ノックアウトで目的のない反復行動が増加した
Crym-positive striatal astrocytes gate perseverative behaviour
Ollivier et al., Nature. 2024 Mar;627(8003):358-366.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07138-0
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CRISPR/Cas9ゲノム編集で、脳にあるグリア細胞の1種であるアストロサイトのCrym遺伝子をノックアウトしたマウスは、過剰な毛づくろいをするようになった(目的のない反復行動の増加)。神経細胞のみが行動を制御しているわけではないようだ。Nature誌。