メールマガジン:ゲノム編集論文⑨

セツロテックでは、月に一度、最新のゲノム編集に関する情報をお届けするメールマガジンを配信しています。今回の記事では、メールマガジンの人気コーナー「最近のピックアップ論文」から厳選した内容をご紹介します。
配信号:2025年1月
1. 1塩基を編集するだけで、プリオン病モデルマウスの寿命が1.5倍に
In vivo base editing extends lifespan of a humanized mouse model of prion disease
An et al., Nat Med. 2025 Jan 14 (Online ahead of print)
https://www.nature.com/articles/s41591-024-03466-w
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プリオン病は、プリオンタンパク質(PrP)のミスフォールディングによって引き起こされる致死的な神経変性疾患であり、現在のところ治療法はない。米ブロード研究所のAnらは、PRNP遺伝子の自然発生的な変異であるR37Xが、人体に有害な副作用を与えることなくPrPレベルを低下させることに注目し、プリオン病モデルマウスに塩基編集を使用して同じ変異を導入することを試みた。異常プリオンを防止するためには、PrP自体を枯渇させればよいのである。AAVベクターでシトシンベースエディターを脳内に送達し、PRNP遺伝子の配列を「1文字」変えて停止コドンが生まれるようにすると、マウス脳内のPrPが平均63%減少し、寿命が52%延長した。このとき、臨床的に重要であると予想されるオフターゲット編集は検出されなかった。この戦略を用いれば、プリオン病の患者に対する1回限りの治療法につながる可能性がある。(研究開発部T)
2. ゲノム編集技術をもってジャガイモの「毒」を制する
A cellulose synthase–like protein governs the biosynthesis of Solanum alkaloids
Jozwiak et al., Science. 2024 Dec 20;386(6728):eadq5721
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq5721
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ナス科の植物は、昆虫や動物に食べられるのを防ぐため、有毒なステロイド性グリコアルカロイド(SGA)を産生する(例えば、ジャガイモの芽に含まれるα-ソラニンや、トマトに含まれるα-トマチン)。SGAは、有用ステロイド化合物として食品、化粧品、製薬産業への応用も期待されているが、その生合成経路の全容解明には至っていなかった。イスラエルのワイツマン科学研究所のJozwiakらは、小胞体に局在するグルクロン酸転移酵素GAME15が、SGA生合成の足場タンパク質として機能し、代謝物チャネリングを担っていることを発見した。CRISPR-Cas9ゲノム編集で、GAME15遺伝子をノックアウトしたジャガイモでは、SGAであるα-ソラニンとα-チャコニンが完全に消失しており、ヨトウガの幼虫に食べられる面積も野生株と比較して大幅に増加していた。包丁でジャガイモの芽を取らなくてよくなるかも。(研究開発部T)
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