メールマガジン:ゲノム編集論文②

セツロテックでは、月に一度、最新のゲノム編集に関する情報をお届けするメールマガジンを配信しています。今回の記事では、メールマガジンの人気コーナー「最近のピックアップ論文」から厳選した内容をご紹介します。
配信号:2023年9月、10月
ゲノム編集により、商品価値と病気への抵抗性の「二兎」を得る
Targeted editing of multiple homologues of GTR1 and GTR2 genes provides the ideal low-seed, high-leaf glucosinolate oilseed mustard with uncompromised defence and yield
Mann et al., Plant Biotechnol J. 2023 Aug 4 (Online ahead of print)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/pbi.14121
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植物油の原料となる菜種とマスタードの種子の搾りかすは、タンパク質が豊富で家畜飼料として有用である。これまでの品種改良により、キャノーラ品種などではグルコシノレート(辛味の原因となるカラシ油の前駆物質)の含量はかなり低く、飼料として利用しやすい。一方で、生育中の病原虫に対する抵抗性は失われ、脆弱な品種になっていた。インドの国立植物ゲノム研究所のMannらは、CRISPR/Cas9システムを用いたグルコシノレートトランスポーター(GTR)ファミリー遺伝子のゲノム編集により、種ではグルコシノレートが低いが、葉や茎には高蓄積するマスタードを作製し、「二兎」を得ることに成功した。すなわち、ゲノム編集した”low-seed, high-leaf”グルコシノレート系統では、種子でのグルコシノレート含量はキャノーラと同程度に抑えつつ、感染防御の面では野生型と同程度の抵抗性を示した。(研究開発部T)
1匹の動物の組織内で、モザイクのようにそれぞれの細胞ごとに異なる遺伝子を編集する
Transcriptional linkage analysis with in vivo AAV-Perturb-seq
Santinha et al., Nature. 2023 Sep 20 (Online ahead of print)
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06570-y
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CRISPRスクリーニングと1細胞レベルでのトランスクリプトーム解析の組み合わせにより、細胞を1つ1つ異なる遺伝子でKOして、各々の細胞での遺伝子発現パターンの変化を調べることで、遺伝型(genotype)と表現型(phenotype)の相関をハイスループットに観察することができる。さらに、in vivoの細胞を用いてこうした解析ができるように、チューリッヒ工科大学のSantinhaらは、AAVベクターを使って成体マウスにバーコードを付加したプール型gRNAを導入し、特定の臓器(今回は脳)内で、それぞれの細胞ごとに異なる遺伝子編集を同時におこすことに成功した。あとは標的の臓器組織を回収し、scRNA-seqを実施して解析する。この「AAV-Perturb-seq」を活用し、3つの22q11.2欠失症候群関連遺伝子を新たに同定することに成功した。(研究開発部T)