メールマガジン:ゲノム編集論文⑰

セツロテックでは、月に一度、最新のゲノム編集に関する情報をお届けするメールマガジンを配信しています。今回の記事では、メールマガジンの人気コーナー「最近のピックアップ論文」から厳選した内容をご紹介します。

配信号:2025年9月

眼の再生研究のためにジャンボタニシに目をつける

A genetically tractable non-vertebrate system to study complete camera-type eye regenerationAccorsi et al., Nat Commun. 2025 Aug 6;16(1):6698.
カメラ眼は、脊椎動物と頭足類などに見られる眼の構造で、水晶体(レンズ)によって効率よく光を集め、網膜(光受容体)上にはっきりした像を得ることができる。この複雑で高度な構造の完全な再生メカニズムを理解することは難しかった。米ストワーズ医学研究所のAccorsiらは、スクミリンゴガイ(俗にいうジャンボタニシ)が、眼を完全に切除しても1か月程度で視神経まで含めた完全な眼球構造の再生が可能であることを発見した。同時に、受精卵の採取とマイクロインジェクション、胚のex-ovo培養方法(あの鮮やかな赤い卵塊から胚を取り出した後にどうやって育てるか?)などのプロトコルを開発し、CRISPR-Cas9ゲノム編集によるノックアウト変異体系統の作製が可能なことまで示した。この巻貝のゲノムには、脊椎動物で眼の発生に関与する複数の遺伝子が含まれており、カメラ眼の再生研究のモデル生物となりうる。(事業開発部T)

毛細血管の収縮はPIEZO1を介して癌細胞の腫瘍形成を促進する

Capillary constrictions prime cancer cell tumorigenicity through PIEZO1Silvani G. et al., Nature Communications (2025).
がん細胞は体内を巡る血流の中で、直径数マイクロメートルしかない毛細血管を通過する際に核が強く押しつぶされるほどの圧迫を受ける。この物理的ストレスが機械刺激を感知するイオンチャネルPIEZO1を活性化し、急激なカルシウム流入を誘発、クロマチン構造と遺伝子発現を再編させることで、自己複製能と高い治療抵抗性を備えた「がん幹細胞様性質」をがん細胞に付与することが明らかとなった。がん幹細胞は自己複製能を持ち、再発や遠隔転移の主要因とされる。従来は主に遺伝的変化や化学的シグナルによって、がん幹細胞様性質の獲得が説明されてきたが、本研究は血管通過という単純な物理過程そのものが、がんをよりしぶとく厄介な存在へと変化させるトリガーとなる可能性を示した。転移機構解明と治療戦略の再考に新たな視点を提供する成果である。(共創推進部U)

 

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