ノックアウト細胞とは?目的や作り方について解説

ノックアウト細胞とは

ノックアウト細胞とは、遺伝子編集技術などにより特定の遺伝子(標的遺伝子)機能を欠失させた細胞のことを指しており、遺伝子の生物学的な機能の解明、疾患の原因、病態機序の解明、薬剤動態や薬効などを理解するツールとして用いられています。標的遺伝子機能を欠失させたノックアウト細胞を用いることで、その遺伝子が細胞内でどのように機能しているか、また、その遺伝子が欠けた場合に細胞や組織にどのような影響が出るかを科学的な根拠をもって観察・検証することができるようになり、疾患における遺伝子の役割や潜在的な治療標的の特定が可能となります。

特にがん、神経変性疾患、遺伝的障害などの研究分野において、ノックアウト細胞は不可欠なツールです。病理機構の解明や新規薬剤のスクリーニング、遺伝子治療アプローチの開発にも大変重要な役割を果たしています。

CRISPR/Cas9を用いたノックアウト細胞の作り方

1.遺伝子の選定

研究の目的に即して、ノックアウトする標的遺伝子を選定します。標的遺伝子の選定においては、研究対象の疾患や生理的プロセスに関連していることが確認された、あるいは関連が予想される遺伝子を選択します。

2.ガイドRNAの設計

選定した遺伝子の機能を欠失させるための、該当する遺伝子領域にガイドRNA (gRNA) を設計します。

3.ガイドRNAと遺伝子編集ツールの導入

設計したgRNAとCas9のタンパク複合体、もしくは発現ベクター(遺伝子編集ツール)を作製し、細胞に導入します。細胞へのベクター導入方法として、リポフェクションやエレクトロポレーションが一般的に使用されています。

4.細胞の培養

遺伝子編集ツールを導入した細胞を適切な培養条件下で培養し、正常に増殖することを確認します。

5.クローニングと純化

標的遺伝子へ変異が導入された細胞を選別するため、限界希釈法などを用いてシングルセル化し、クローン細胞株を樹立します。樹立された細胞株において遺伝子編集の確認のためPCR、シーケンシングなどを行い、目的のノックアウト細胞株を確立します。

6.機能検証

ノックアウトされた遺伝子の影響を調べるため、樹立したノックアウト細胞を用いて細胞増殖試験、アポトーシスアッセイなど研究に即した試験を行い、細胞の生物学的特性や機能解析を行います。

注意点

オフターゲット効果

細胞内に導入した遺伝子編集ツールが、標的遺伝子領域以外でもワークしてしまい(特に、近傍に類似した配列があるなどの場合)、当該箇所を切断してしまうこと。Cas9の利用による遺伝子編集においては不可避的な事象ではありますが、これを極力回避するため、ガイドRNAの設計においてはオフターゲット効果の低い箇所を慎重に選択し、且つ実際の切断効率・箇所を確認するなど、事前の検証を重ねる必要があります。

シングルセル化後の増殖機能

シングルセル化した後、単独では非常に増殖しにくい性質を持つ細胞があります。そのようなケースでは、クローン化の作業が滞ってしまい、実際の研究実験に供することができないこととなってしまう可能性があります。この点も関連論文を検索するなど、可能な限り事前に確認する必要があります。

アレル数の増減

継代・増殖等により染色体数が異常に増減する性質を持つ細胞では、遺伝子編集後の解析が実質的に不可能となってしまうことがあります。この点も関連論文を検索するなど、可能な限り事前に確認する必要があります。

機能解析の精度

ノックアウト細胞を用いた実験では、遺伝子の機能喪失が細胞にどのように影響するかを解析することが求められます。対照実験として野生型細胞やコントロール細胞との比較が不可欠なケースもありますので、事前の試験計画は慎重に行う必要があります。

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