制限酵素
制限酵素は、バクテリアが侵入するウイルスDNAを切断するための生物学的防御メカニズムから発見された酵素です。これらの酵素は、特定の短いDNA配列を認識し、その部分で二本鎖DNAを特異的に切断する能力を持っています。
制限酵素の分類
- I型制限酵素:認識サイトから離れた部位でDNAを切断します。切断にはATPをエネルギー源として使用します。
- II型制限酵素: このタイプの酵素は遺伝子工学で最も一般的に使用されます。4~8塩基対からなるパリンドローム(回文)配列を認識し、通常はその配列内または近くで切断します。これらはATPを必要とせず、特定の部位を切断することから広く利用されています。
- III型制限酵素:認識サイトから少し離れた部位で切断します。ATPを必要とし、切断活性に二つの異なるサブユニットが関与します。
切断末端のタイプ
- 粘着末端 (Sticky ends): 切断が非対称で行われ、一方のDNA鎖が他方よりも長く残るため、相補的なシングルストランドが露出します。これにより、他の粘着末端を持つDNA断片と容易に結合できます。
- 平滑末端 (Blunt ends): 切断が対称に行われ、両方のDNA鎖が同じ位置で切断されるため、末端にシングルストランドが露出しません。
制限酵素の応用例
- DNAクローニング: 制限酵素を用いて特定のDNA断片を切り出し、プラスミドや他のベクターに挿入することで遺伝子をクローニングします。
- 分子診断: 制限酵素の切断パターンの違いを利用して、遺伝子の変異や多型を識別します。
- 制限断片長多型 (RFLP) 分析: DNAの特定領域における遺伝的多様性を分析するために使用されます。
- 制限地図の作成: 制限酵素による切断パターンを用いて、DNA分子のマップを作成します。
制限酵素の発見とその応用は分子生物学の進歩に革命をもたらし、遺伝子組み換え技術の基礎を築きました。これにより、科学者はDNAを精密に操作して、生物学的な問題の解決や医学的治療の開発に役立てることが可能になりました。