プロモーター

プロモーターは、遺伝子の発現を制御するDNAの領域で、転写の開始点の上流に位置します。この領域は、RNAポリメラーゼとその補助タンパク質である転写因子が結合し、特定の遺伝子や非コードRNAの転写を開始するための重要な役割を果たします。

プロモーターの構造

  1. 基本領域: プロモーターは、転写開始点の直接上流に位置する基本領域と、より遠位にあるエンハンサーやサイレンサーなどの調節領域から構成されます。基本領域には、RNAポリメラーゼIIや基本転写因子が結合し、転写プロセスを開始します。
  2. TATAボックス: 真核生物の多くのプロモーターに見られる共通配列で、5′-TATAAA-3′ の配列を持ち、転写開始位置の約25塩基対上流に位置します。TATAボックスは転写開始点の正確な位置決めに寄与し、転写の効率を高めます。

プロモーターの機能

  1. 転写の開始: プロモーターは、遺伝子の転写を開始するための「スイッチ」の役割を果たします。基本転写因子とRNAポリメラーゼがプロモーター領域に結合することで、転写が開始されます。
  2. 遺伝子発現細胞/組織の調節: プロモーター領域とその上流または下流の調節領域に結合する様々な転写因子により、遺伝子発現は細胞の種類、発生段階、および外部からのシグナルに応じて精密に調節されます。一方、恒常的に発現する遺伝子プロモーターは、全ての細胞や組織で発現します。

研究での利用

  1. プロモーター活性の解析: プロモーター領域の活性を解析することで、遺伝子発現の調節機構を理解することができます。これは、転写因子の結合サイトや調節領域の同定に利用されます。
  2. 遺伝子発現の操作: 導入したベクターから遺伝子の転写を誘導するためにプロモーターを用います。恒常的プロモーター、あるいは細胞/組織特異的プロモーターなどを適切に選択することにより、目的に即した遺伝子機能の解析が可能になります。また、がん細胞選択的に遺伝子発現を誘導するなど、プロモーターの選択は遺伝子治療への応用にも重要です。
  3. ゲノム編集等での使用: Cas9を含むゲノム編集遺伝子の発現には、RNAポリメラーゼII型プロモーターが使用されます。一方、ゲノム編集に不可欠なガイドRNAの転写には、一般的にRNAポリメラーゼIII型プロモーターが用いられます。RNAポリメラーゼIII型プロモーターは、短いRNAを強力に転写することが可能であり、またRNAポリメラーゼII転写産物で付加されるRNA修飾が無いことから、ガイドRNAの転写に適しています。

プロモーターは、遺伝子発現の起点となる重要なDNA領域であり、生物学的プロセスの調節において中心的な役割を担っています。遺伝子の発現パターンを理解し、操作するためには、プロモーターの構造と機能の詳細な理解が不可欠です。

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