イントロン
イントロン(intron)は、真核生物の遺伝子内に存在する塩基配列の一部であり、転写はされるものの、最終的に機能するmRNAからスプライシング反応によって除去される部分です。つまり、イントロンはタンパク質のアミノ酸配列には翻訳されません。
イントロンの存在と機能
- 転写とスプライシング: 真核生物のDNAが転写されてmRNA前駆体(pre-mRNA)が生成されると、その中にはエクソン(タンパク質をコードする部分)とイントロン(タンパク質をコードしない部分)が含まれています。スプライシングによってイントロンは除去され、エクソンが連結されて成熟したmRNAが形成されます。
- タンパク質翻訳への不関与: イントロンは最終的なタンパク質のアミノ酸配列に含まれないため、直接的にはタンパク質の機能に寄与しません。
イントロンの役割
- 選択的スプライシング:選択的スプライシングによって、同じ遺伝子から複数種のmRNAが生成され、これにより多様なタンパク質が作られます。これが細胞や組織の特異的な機能を担うタンパク質の多様性を生み出します。
- エクソンシャッフリング:イントロン部分での相同組換えにより、エクソンシャッフリングが起こります。エクソンシャッフリングは、新しいタンパク質ドメインの組み合わせを作り出す手法であり、遺伝子の進化の過程において多様性をもたらします。
スプライシングの過程
- スプライソソームの役割: スプライシングは、スプライソソームと呼ばれる複雑なRNA-タンパク質複合体によって行われます。スプライソソームは、イントロンの5’末端と3’末端の特定の配列(5’スプライス部位、3’スプライス部位)を認識し、イントロンを切り出してエクソンを連結します。スプライシングが完了すると、スプライソソームは解離し、mRNAは核外輸送されます。
イントロンの科学的意義と研究
- 遺伝子発現の制御: イントロンは、遺伝子発現の制御において重要な役割を果たしており、制御異常は特定の遺伝病やがんの発症の原因となります。
- 進化的視点: イントロンの存在は、遺伝子の進化において重要な要素と考えられています。イントロンの獲得と喪失は、遺伝子の機能と構造の進化に関与しています。
- バイオテクノロジーの応用: イントロンのスプライシング制御を利用した治療法が開発されています。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、スプライシング調節薬として医薬品に使用されています。
イントロンは、単なる非コード領域ではなく、遺伝子発現や進化において重要な役割を果たしています。その研究は、分子生物学、遺伝学、医学において重要な意義を持ち、遺伝子疾患の理解や新しい治療法の開発に寄与しています。