近交系

近交系(Inbred strain/inbred line)は、高度に統一された遺伝的背景を持つ動植物の系統を作り出すために、兄妹間または親子間の近親交配を20世代以上継続して行った結果得られます。このプロセスによって、個体間の遺伝的変異が最小限に抑えられ、遺伝的に均一な系統が生み出されます。

近交系の特徴

  1. 遺伝的均一性: 近交系は遺伝的に均一であるため、同じ系統の個体間での遺伝的差異は極めて少なくなります。これにより、生物学的実験における再現性が向上し、結果の解釈が容易になります。
  2. ヘテロ接合度の低下: 長期間の近親交配により、ヘテロ接合体(異なる対立遺伝子を持つ状態)の割合が大幅に減少します。これにより、ほぼすべての遺伝子座がホモ接合体(同じ対立遺伝子を持つ状態)となります。

近交系の利用

  1. 疾患モデル: 特定の遺伝的背景を持つ近交系は、人間の遺伝病や疾患の動物モデルとして広く用いられます。遺伝的均一性が高いため、疾患の発症機構や治療法の研究に適しています。
  2. 遺伝学的研究: 近交系は、遺伝子の機能や遺伝的変異の影響を調査するための基本的なツールとして利用されます。遺伝子発現のパターンや相互作用の研究に役立ちます。

近交系の代表的な動物系統

  1. マウス: C57BL/6、BALB/c、DBA/2などの系統は、免疫学、がん研究、神経科学など、さまざまな分野で使用されています。
  2. ラット:Fischerなどの系統は、心血管研究、薬理学、行動科学などに広く利用されています。

近交系の制約

  1. 遺伝的多様性の欠如: 遺伝的均一性は多くの実験において利点ですが、自然界の遺伝的多様性を反映していないため、一部の研究では限界があります。
  2. 特定の遺伝的脆弱性: 長期の近親交配は、特定の系統特有の遺伝的欠陥や疾患の感受性を引き起こす可能性があります。

近交系は、生物学的および医学的研究において重要なツールです。これらの系統を利用することで、科学者は遺伝的背景が制御された条件下で実験を行い、より一貫性のある結果を得ることができます。

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