CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)
CRISPRは、原核生物のゲノムに見られる独特なDNA領域で、自然界における一種の獲得免疫システムとして機能します。Cas(CRISPR-associated)タンパク質とともにCRISPR-Casシステムを構成し、外来のDNA(主にウイルス由来)を認識して切断し、細菌や古細菌を侵入者から守ります。
CRISPR-Casシステムの構成
- CRISPR: CRISPRは、短い反復配列(リピート)とそれらの間に挟まれたスペーサー配列から構成されています。スペーサーは以前に細胞が遭遇したウイルスのDNAから由来しており、これによって「記憶」が形成されます。プラスミドやファージが侵入すると、プラスミドやファージのDNAが切り取られ、CRISPRに挿入されます。CRISPRは一連のpre-crRNAとして転写された後、切断され、crRNAになります。
- Casタンパク質: Casタンパク質は、crRNAと複合体を形成し、侵入するウイルスのDNAを切断します。最も広く研究されているCasタンパク質はCas9で、II型CRISPR-Casシステムに属します。
CRISPR-Cas9のメカニズム
- RNA誘導: Cas9タンパク質は、ガイドRNA(一般にcrRNAとtracrRNAの複合体)によって特定のDNA配列へ導かれます。ガイドRNAはウイルスDNAと相補的な配列を持ち、Cas9を正確な切断位置へと誘導します。
- DNA切断: Cas9はRNAが認識する配列に結合した後、そのDNAを二本鎖で切断します。この切断の後、細胞に内在したDNA修復メカニズムを通じて変異が導入されます。
CRISPRの応用
- ゲノム編集: 病気の原因となる遺伝子の変更、機能喪失変異の導入、または望ましい特性の追加など、遺伝子の編集に広く用いられています。
- 治療目的: 遺伝性疾患、がん、HIVなどの治療に向けた研究が進行中です。特定の病気関連遺伝子を直接修正することで、これらの疾患の治療が期待されています。
- 基礎研究: 生物学的機能の解明や病理メカニズムの研究において、特定の遺伝子の役割を研究するための強力なツールとして利用されます。
CRISPR技術は、その単純さ、効率性、および適応性から革命的な科学的発展を促し、分子生物学の研究だけでなく、医療、農業、生物工学など幅広い分野に影響を及ぼしています。