2026年7月のX紹介精密育種・ゲノム編集論文&ニュース

株式会社セツロテックのX(旧Twitter)アカウントでは、精密育種やゲノム編集技術に関する論文やニュースを、弊社メンバーが独断と偏見でピックアップしてつぶやいています。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けしております。精密育種技術の社会実装を目指す大学発ベンチャーとして、皆さんの新技術への理解増進の一助になれば幸いです。ぜひ、フォローを!ここでは、2026年7月のポストで紹介した内容を再編成して掲載いたします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、会社としての正式な見解では無く、担当者個人の理解によるものです。

タコのリボソームは正確に翻訳できる

A molecular quirk unique to octopuses makes them better at building proteins, Reardon, Science 2026年7月8日

タコは正確にタンパク質を合成できる(=翻訳の正確性を高め、誤読やそれに続くタンパク質の凝集を抑制する)変異を持っている。タコ型の変異(H88 rRNA break)を大腸菌に導入すると、キメラ大腸菌リボソームは翻訳の正確性が2倍に向上した。Science誌のニュース記事。

ゲノムDNAを二本鎖切断せずに10kbサイズをノックインする方法

Efficient and precise programmable DNA knock-in without double-strand breaks, Gao et al., Nature. 2026 Jul 22
DNAの二本鎖切断を伴わずに、~10kbスケールのDNAを効率的かつ正確、かつプログラム可能に挿入できる「CRISPR KNIT編集」の報告。DNAドナーをシングルニック部位に近接させておけば、ノックイン効率が大幅に向上するのではないか?というアイデア。Nature誌の論文。

AIを利用した天然には存在しない新タンパク質の設計戦略

Structure and evolution-guided design of minimal RNA-guided nucleases, Skopintsev et al., Science. 2026 Jul 16;393(6808):313-318.
Doudnaさんチームによる、AIを利用した天然には存在しない新タンパク質の設計戦略の報告。構造を起点とする逆フォールディングモデルと進化の知見に基づくアミノ酸制約条件を組み合わせることで、効率よく機能的なRNAガイド型ヌクレアーゼを設計できた。Science誌の論文。

rDNAの転写を活性化するとタンパク質をたくさん合成できる

Manipulation of protein translation and stem cell self-renewal by CRISPR activation of rRNA transcription, Wiesbeck et al., Science. 2026 Jul 2:eaeh1348
CRISPRaを用いて47S rDNAの転写を活性化することで、リボソーム生合成とタンパク質翻訳能を向上させる手法「TAPIR」の報告。rRNA量が翻訳産生量を直接的に制御し、幹細胞の自己複製や腫瘍の増殖に影響することを示した。Science誌の論文。

セツロテックの「ST8」によるスジアオノリのゲノム編集

Expanding the scope of precision editing in seaweeds through the application of a novel CRISPR-Associated Nuclease 12a (Cas12a) -aligned CRISPR system in Ulva prolifera, Qin et al., J Exp Bot. 2026 Jun 19
セツロテック研究員と北海道大学大学院水産科学研究院の宇治利樹准教授らの研究グループによるJournal of Experimental Botany誌の論文。食用海藻であるスジアオノリに対し、セツロテック独自のRNAガイド型ヌクレアーゼ「ST8」を用いたゲノム編集を実施し、海藻への適用に適した導入条件や培養条件を検討した成果を報告した。本成果により、海藻に適用可能なゲノム編集ツールの選択肢が広がり、スジアオノリをはじめとする海藻の遺伝子機能解析や、有用形質に関わる遺伝子の探索が進むことが期待される。本研究は、セツロテックも参加しているスマート育種協議会による「ゲノム編集テクノロジー実用化研究助成(Get-RG)での第1回採択研究として研究活動をサポートした。

CRISPR試験に対する専門家のアドバイス集

STAR Protocols question-and-answer series: CRISPR, Shokri, STAR Protoc. 2026 Jun 22;7(3):104600.
STAR Protocols誌のQ&AシリーズのCRISPR試験編。CRISPR技術、ゲノム編集戦略、トラブルシューティングのアプローチに関するよくある19の質問について、専門家がアドバイスを共有してくれている。

微量栄養素不足の解決のための精密育種の戦略

Genetic technologies to enhance crop nutritional value under climate change, Van Der Straeten et al., Nature. 2026 Jun;654(8120):877-891.
「隠れた飢餓」とも呼ばれる微量栄養素不足の解決のために、ゲノム編集技術は何ができるのか?21世紀の最も重要な社会課題の一つであるこの問題に対し、CRISPR-Cas技術を代謝工学やその他の育種技術と統合することの重要性を主張するレビュー論文。Nature誌。

指向性進化法による高活性化変異体の作製

Directed evolution of compact RNA-guided nucleases for enhanced activity in mammalian cells, Gorbenko et al., Genome Biol. 2026 Jun 16;27(1):213.
指向性進化法によるTnpBの高活性化の報告。コンパクトで治療用途に使いやすいが、哺乳類細胞内で低活性でもあったCas12fとTnpBについて、変異導入とスクリーニングを繰り返すことで、HDR効率が最大11倍向上する多重変異体を作製した。Genome Biology誌。

CRISPR-Casシステムによる翻訳促進戦略

Programmable enhancement of endogenous mRNA translation through CRISPR-guided epitranscriptomic regulation, Cheng et al., Cell Discov. 2026 Jun 24;12(1):45.
CRISPR-Casシステムによる翻訳促進の戦略「CRISPR-TE」の報告。ゲノム配列やRNAの塩基組成を改変することなく、翻訳レベルで内在性タンパク質の産生量を選択的に増強できる。CRISPR技術は、ゲノム編集や転写制御にとどまらない新たな領域へ。Cell Discovery誌の論文。

AI「ContactSeek」による高精度な塩基編集ツールの開発

AI identifies interactions in CRISPR complexes to improve specificity of DNA editing, Chu & Wong, Nature. 2026 Jul 22
AlphaFold3が予測したCas-DNA-gRNA複合体の接触確率(contact probability)を解析するAI「ContactSeek」により、Casの特異性決定残基を同定。オンターゲット活性を維持しつつオフターゲット編集を低減できる高精度な塩基編集ツールを開発できた。Nature誌のNews&Views記事。

オオムギのリグニン含量を低減させる遺伝子を同定

Cinnamyl alcohol dehydrogenase (CAD) underlies the orange lemma trait and lignin reduction in barley, Sato et al., Sci Rep. 2026 Jul 4
CAD遺伝子は、オオムギのリグニン含量を低減させるような精密育種のターゲットとなりうるとの報告。ノックアウト個体では、野生型個体と比較してリグニン含量が有意に低く、飼料としての消化率向上やバイオエタノール生産効率の改善に寄与する可能性。Scientific Reports誌。

20kb!ものホモロジーアームで正確にノックイン

CRISPR-mediated precise large fragment insertion in zygotes enables rapid generation of humanized immunoglobulin heavy-chain mice, Nair et al., Immunity. 2026 Jul 9:S1074-7613(26)00259-1.
マウス受精卵での超長鎖HDRノックインゲノム編集の報告。マウスのIg重鎖可変領域遺伝子座の両端をCRISPR-Cas9で切断し欠失させた後、155kbのヒトVH DNA断片を含むBACプラスミドを精密にノックイン。ホモロジーアームを長くする(20 kb!)のがコツらしい。Immunity誌の論文。

精密育種技術で光合成能力を操作する

Chloroplast genome editing of Rubisco boosts photosynthesis and plant growth, Yamori et al., Nat Commun. 2026 Jun 19;17(1):5066.
葉緑体ゲノムにあるRubisco大サブユニット遺伝子の単一アミノ酸置換で、C3植物におけるRubiscoの触媒特性をC4型に近づけた報告。C3植物の光合成能力の「ボトルネック」を精密育種することで、植物体の生産性向上を実現させる。Nature Communications誌。

医療分野ではエピゲノムエディターの時代へ

CRISPR’s next act: the companies editing the epigenome to treat disease, Hong et al., Nature. 2026 Jun;655(8121):26-28.
スタートアップにおけるエピゲノムエディターの研究開発が進む。特に、医療分野で、特定の遺伝子に影響を与えるエピジェネティックマーカーを正確に改変する標的型エピジェネティック編集は、研究上の概念から臨床の段階へ徐々に進みつつある。Nature誌のニュース記事。

ドナー臓器を”体外”に取り出してから遺伝子編集する試み

CRISPR-based ex vivo gene editing of donor organs, Rananaware et al., Nat Rev Bioeng. 2026 June 29
灌流ポンプで維持されている移植用ドナー臓器に対する、”ex vivo”での遺伝子編集や遺伝子サイレンシングの試みを紹介する記事。概念実証から、臓器全体への適用における課題に至るまで、その開発の現状を論じる。Nature Reviews Bioengineering誌。

ルテオリンの含有量を約6倍に増加させたゲノム編集シソ

CRISPR-Cas9 disruption of flavanone 3-hydroxylase produces a green phenotype and alters flavone metabolites in allotetraploid perilla, Matsushita et al., Front Plant Sci. 2026 Jun 15:17:1877946.
CRISPR-Cas9による精密育種で、ルテオリンの含有量を約6倍に増加させたシソを作製したという報告。フラボノイド生合成経路で機能するF3H遺伝子のノックアウトで、アントシアニンの蓄積が著しく減少し、フラボン関連代謝産物が増加した。Frontiers in Plant Science誌。

ニワトリPGCの株化効率を左右する因子を同定

The chicken retrovirus-like gene ENS-1/ERNI and Soprano LTR are involved in primordial germ cell development, Okuzaki et al., iScience. 2026 Jun 23;29(7):116434.t
ニワトリPGC細胞の株化効率を左右する因子を同定したという報告。ゲノム中にあるレトロウイルス様遺伝子であるENS-1/ERNIの発現量が、品種ごとのPGC株の樹立のしやすさと相関しており、この機能をCRISPRiで抑制すると移植時の生殖腺への定着が阻害された。iScience誌。

家畜感染症を引き起こす昆虫ヌカカにおけるゲノム編集に初めて成功

CRISPR-Cas9 mediated knockout of the white gene in the bluetongue virus vector, Culicoides sonorensis (biting midge), Nevard et al., Sci Rep. 2026 Jul 16;16(1):19937.
アルボウイルスを媒介する小型の吸血性昆虫ヌカカで、初めてのCRISPR-Cas9ゲノム編集の報告。Cas9とsgRNAを雌成虫の胸部に注入することで、white遺伝子に変異を導入し、最終的に単一の変異を持つホモ接合型ノックアウト系統を樹立した。Scientific Reports誌。

タンパク質のサイズを拡大・縮小できるAI「Raygun」が登場

Miniaturizing and modifying natural proteins with Raygun, Devkota at al., Nature. 2026 Jul 29
機能を変えずにタンパク質のサイズを拡大・縮小できるAI「Raygun」が登場。各タンパク質を「固定次元の確率分布」として符号化することで、アミノ酸の数を15〜20%削減したり、元のサイズを超えて拡張したり、広範な配列多様性を導入したりすることが可能に。Nature誌の論文。

ヒト免疫系モデルマウスの樹立についてのレビュー論文

Establishing human immune system mice: application, opportunity, and challenges, Chiang et al., Exp Mol Med. 2026 Jul 3
創薬における不可欠なツールとなっているヒト免疫系モデルマウスの樹立についてのExperimental & Molecular Medicine誌の総説論文。ヒト免疫細胞の分化・発達に用いられる様々な免疫不全マウス系統について、近年の進歩と疾患モデルとしての現在の応用状況を概説する。

スギが無花粉となる原因遺伝子の一つを特定

Positional identification of a candidate gene for MALE STERILITY 2 (MS2) by linkage mapping and transcriptomic data in Cryptomeria japonica D. Don, Ueno et al., BMC Genomics. 2026 May 19;27(1):595.
無花粉スギとなる原因遺伝子の一つを特定したという報告。花粉形成に働くGELP遺伝子において、GDSLモチーフでの1塩基変異を発見した。複数の雄性不稔遺伝子を利用できるようになると、木材としての優良形質と無花粉を両立させた精密育種の可能性が広がる。BMC Genomics誌。

ヘモグロビン異常症に対する複数の治験で良好な結果が得られた

A turning point for gene editing in severe blood disorders, Arnold, Nat Med. 2026 Jul 15
主要なヘモグロビン異常症を標的とするex vivo遺伝子治療について、最近の臨床試験の結果報告を概説するNature Medicine誌のニュース記事。CRISPRによる複数の治験で得られた良好な結果は、胎児型ヘモグロビンの産生の再活性化が確実な治療戦略となり得ることを示唆する。

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