2023年7月のX(Twitter)紹介ゲノム編集論文&ニュース

株式会社セツロテックのX(Twitter)アカウントでは、ゲノム編集に関する論文やニュースを、弊社メンバーが独断と偏見でピックアップしてつぶやいています。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けしております。ゲノム編集技術の社会実装を目指す大学発ベンチャーとして、皆さんの新技術への理解増進の一助になれば幸いです。ぜひ、フォローを!ここでは、2023年7月のポスト(ツイート)で紹介した内容を再編成して掲載いたします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、会社としての正式な見解では無く、担当者個人の理解によるものです。

1. ゲノム編集技術でマウスの不安関連行動を軽減する

Genetic modulation of the HTR2A gene reduces anxiety-related behavior in mice
Rohn et al., PNAS Nexus. 2023 Jun 20;2(6):pgad170.
https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgad170
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血液脳関門が障害となる中枢神経系の神経回路の改変に、ゲノム編集技術を用いることに成功。AAV–CRISPR–Cas9 を経鼻投与して、不安やうつ病に関与することが知られている5HT-2A受容体をノックダウンすると、ゲノム編集マウスでは不安様行動が有意に減少した。PNAS Nexus誌。

2. データベースの情報から、より小さなゲノム編集因子を「採掘」する

Evolutionary mining and functional characterization of TnpB nucleases identify efficient miniature genome editors
Xiang et al., Nat Biotechnol. 2023 Jun 29. (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1038/s41587-023-01857-x
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Casタンパク質の次は、その祖先と考えられているTnpBタンパク質に注目が集まる。原核生物ゲノムデータベースの中からお宝を探して、盛んに「マイニング」されている。例えば、Nature Biotechnology誌のこの論文。

3. ゲノム編集ブタ臓器のヒト移植についての症例報告

Graft dysfunction in compassionate use of genetically engineered pig-to-human cardiac xenotransplantation: a case report
Mohiuddin et al., Lancet. 2023 Jul 29;402(10399):397-410.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)00775-4
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昨年メリーランド医科大学で行われたゲノム編集ブタ臓器のヒト移植についての総括。10個の遺伝子のゲノム編集により、術後47日目まで急性拒絶反応は抑えられたが、その後、ガンマグロブリン療法との併用や移植片中の潜在ウイルスの除去などに課題があった。The Lancet誌。

4. ゲノム編集技術で胚の左右軸形成メカニズムを可視化する

Nodal flow transfers polycystin to determine mouse left-right asymmetry
Tanaka et al., Dev Cell. 2023 Jun 27;S1534-5807(23)00275-7.
https://doi.org/10.1016/j.devcel.2023.06.002
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CRISPR/Cas9ゲノム編集で、マウスのPKD1L1ポリシスチン遺伝子のN末端に蛍光タグを導入すると、ノード流に乗って左側に移送される様子が観察された。繊毛の回転による物理的な”水流”と、左右非対称なNodal遺伝子発現の間を埋める新たなモデル。Developmental Cell誌。

5. マラリアを防ぐためにゲノム編集技術でメスの蚊を不妊にする

A confinable female-lethal population suppression system in the malaria vector, Anopheles gambiae
Smidler et al., Sci Adv. 2023 Jul 7;9(27):eade8903.
https://doi.org/10.1126/sciadv.ade8903
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マラリアを媒介する蚊を駆除するために、CRISPR/Casによる雌不妊型のゲノム編集システムを開発。その「娘殺し」の表現型から、ギリシャ神話のアガメムノーンとイーピゲネイア(Iphigenia)の故事に倣い、”Ifegenia” システムと命名された。Science Advances誌。

6. 塩基編集によって胎児の頃のヘモグロビンを再生産させる

Potent and uniform fetal hemoglobin induction via base editing
Mayuranathan et al., Nat Genet. 2023 Jul;55(7):1210-1220.
https://doi.org/10.1038/s41588-023-01434-7
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アデノシン塩基編集を用いて、鎌状赤血球症患者由来の細胞において、γ-グロビン上流にTAL1転写因子結合部位を新たに作成。欠陥のある成人ヘモグロビンの産生を代替するため、本来は成長につれて消失する胎児ヘモグロビンの発現を回復させることに成功。Nature Genetics誌。

7. ハエトリソウでのゲノム編集の報告

Mutational analysis of mechanosensitive ion channels in the carnivorous Venus flytrap plant
Procko et al., Curr Biol. 2023 Aug 7;33(15):3257-3264.e4.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.06.048
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論文を紹介するツイートをリツイートのみ。

8. ゲノム編集技術により異数性染色体を除去することでがん細胞の増殖を抑制

Oncogene-like addiction to aneuploidy in human cancers
Girish et al., Science. 2023 Jul 6 (in press)
https://doi.org/10.1126/science.adg4521
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CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いた”ReDACT”で、がん細胞のゲノムから余分な異数性染色体を除去すると、細胞増殖のスピードが遅くなった。第1染色体の余分な長腕(1qトリソミー)を除去したがん細胞をマウスに移植すると、できた腫瘍サイズは1/25に減少。Science誌。

9. 人工知能によるCas13dのガイドRNAの設計

Prediction of on-target and off-target activity of CRISPR–Cas13d guide RNAs using deep learning
Wessels et al., Nat Biotechnol. 2023 Jul 3. (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1038/s41587-023-01830-8
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CRISPR/Cas13dのガイドRNA設計を、ディープラーニングでAIに習得させる。”TIGER”は、オンターゲットとオフターゲットの両方の活性を予測することができ、RNA分子を標的とするCas13dでは、転写産物の「ノックダウン」の程度を設計できる可能性も示唆。Nature Biotechnology誌。

10. ゲノム編集技術でリグニン含量が少ないポプラの作出に成功

Multiplex CRISPR editing of wood for sustainable fiber production
Sulis et al., Science. 2023 Jul 14;381(6654):216-221.
https://doi.org/10.1126/science.add4514
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製紙する際の脱リグニンの工程はコストや環境負担が大きいので、ゲノム編集技術でリグニンの少ないポプラを作出する。最大6つのリグニン生合成遺伝子を同時改変し、174種類のゲノム編集ポプラを作出。木材の炭水化物/リグニン比は、野生型の228%まで増加。Science誌。

11. 筋ジスロトフィーに対するゲノム編集技術の効果をブタで確認

Systemic deletion of DMD exon 51 rescues clinically severe Duchenne muscular dystrophy in a pig model lacking DMD exon 52
Stirm et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Jul 18;120(29):e2301250120.
https://doi.org/10.1073/pnas.2301250120
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エクソン52欠損型のデュシェンヌ型筋ジストロフィーについて、ゲノム編集でDMD遺伝子をさらに削って、エクソン51をとばしてインフレームにする(エクソン・スキップ)と、症状が改善することをブタで確認。ASOなどと異なり、ゲノム編集だと全身の遺伝子を修正可能。PNAS誌。

12. 花粉のできないスギをゲノム編集技術で作出する

CRISPR/Cas9-mediated disruption of CjACOS5 confers no-pollen formation on sugi trees (Cryptomeria japonica D. Don)
Nishiguchi et al., Sci Rep. 2023 Jul 21;13(1):11779.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-38339-8
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花粉症対策に向けて、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集で、花粉壁の合成に関与するスギCjACOS5遺伝子に変異を導入。アグロバクテリウムを利用。1bp欠失したホモKO変異株ではおしべに花粉がなく、CjACOS5遺伝子はスギの花粉形成に必須であった。Scientific Reports誌。

13. リンゴの木の「しだれ」を引き起こす遺伝子変異を特定

A single amino acid substitution in MdLAZY1A dominantly impairs shoot gravitropism in Malus
Dougherty et al., Plant Physiol. 2023 Jul 3;kiad373. (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1093/plphys/kiad373
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リンゴの木の「しだれ」を引き起こす遺伝子変異を特定。MdLAZY1Aの遺伝子の1アミノ酸変異(L195P)を特定し、ロイヤルガラという品種で変異型遺伝子を過剰発現させると樹形が変化した。ゲノム編集や塩基編集のターゲットになるかも。Plant Physiology誌。

14. 10遺伝子をゲノム編集したブタの心臓片を脳死患者に移植

Pig-to-human heart xenotransplantation in two recently deceased human recipients
Moazami et al., Nat Med. 2023 Jul 24. (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1038/s41591-023-02471-9
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10遺伝子ゲノム編集ブタの心臓片を、2人の脳死したヒトレシピエントに移植(ゼノグラフト)し、66時間にわたってモニターした。急性拒絶反応や人獣共通感染症を示唆するデータは認められず。Nature Medicine誌。

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