2023年9月のX(Twitter)紹介ゲノム編集論文&ニュース

株式会社セツロテックのX(Twitter)アカウントでは、ゲノム編集に関する論文やニュースを、弊社メンバーが独断と偏見でピックアップしてつぶやいています。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けしております。ゲノム編集技術の社会実装を目指す大学発ベンチャーとして、皆さんの新技術への理解増進の一助になれば幸いです。ぜひ、フォローを!ここでは、2023年9月のポストで紹介した内容を再編成して掲載いたします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、会社としての正式な見解では無く、担当者個人の理解によるものです。

1. ゲノム編集により商品価値と病気への抵抗性の「二兎」を得る

Targeted editing of multiple homologues of GTR1 and GTR2 genes provides the ideal low-seed, high-leaf glucosinolate oilseed mustard with uncompromised defence and yield
Mann et al., Plant Biotechnol J. 2023 Aug 4 (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1111/pbi.14121
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ゲノム編集により、種ではグルコシノレート(辛味の原因)が低いが、葉や茎には存在するマスタードを作製。種から油を採った後の搾りかす(飼料として利用)の品質と、生育中の病原虫に対する抵抗性の「二兎」を得ることに成功した。Plant Biotechnology Journal誌。

2. 沖縄のホタルのルシフェラーゼ遺伝子を用いたin vivoイメージング

Development of two mouse strains conditionally expressing bright luciferases with distinct emission spectra as new tools for in vivo imaging
Nakashiba et al., Lab Anim (NY). 2023 Oct;52(10):247-257.
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沖縄のホタルのルシフェラーゼ(oFluc)遺伝子を、CRISPR/Cas9ゲノム編集でノックインしたマウスは、肉眼でもわかるぐらいよく光る(従来のFlucに比べて4~10倍)。Cre-loxPシステムで組織特異的に発現させることも可能。理研&オリンパスらのチーム。Lab Animal誌。

3. 長生きの秘訣はハダカデバネズミの高分子ヒアルロン酸合成酵素

Increased hyaluronan by naked mole-rat Has2 improves healthspan in mice
Zhang et al., Nature. 2023 Sep;621(7977):196-205.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06463-0
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ハダカデバネズミの高分子ヒアルロン酸合成酵素遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックマウスは、より長生きになった。複数の組織で炎症の抑制が観察され、がんの発生率が低くなり、寿命の中央値が4.4%増加。トランスクリプトームデータでも変化を確認。Nature誌。

4. 欧州委員会がGMO全般の大幅な規制緩和を目的とした案を発表

欧州で遺伝子組換え作物に関する規制緩和案が発表
日経バイオテク
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082300012/090600166/
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関連ポストをリポストのみ。

5. 超音波で小さな結晶を細胞膜に当ててゲノム編集ツールを送達する

The sonication-assisted whisker method enables CRISPR-Cas9 ribonucleoprotein delivery to induce genome editing in rice
Nakamura et al., Sci Rep. 2023 Sep 7;13(1):14205.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-40433-w
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イネのカルス細胞と一緒に、ウイスカーという細い針状結晶とCRISPR/Cas9ゲノム編集ツールを混ぜて超音波を当てることで、RNPでの植物ゲノム編集に成功。産総研・インプランタイノベーションズ・凸版印刷らのチーム。Scientific Reports誌。

6. ゲノム編集を用いたイネの窒素利用効率の向上

CRISPR/Cas9-mediated elimination of OsHHO3, a transcriptional repressor of three AMMONIUM TRANSPORTER1 genes, improves nitrogen use efficiency in rice
Liu et al., Plant Biotechnol J. 2023 Aug 24.
https://doi.org/10.1111/pbi.14167
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イネのCRISPR/Cas9ゲノム編集により、土壌中のアンモニウムイオンの吸収を担う輸送体遺伝子を転写抑制しているOsHHO3遺伝子の機能を欠損させると、窒素栄養が乏しい環境での生育が向上し、収量も増加した。Plant Biotechnology Journal誌。

7. 新たなゲノム編集因子Fanzorについてのスポットライト記事

For the CRISPR Fan(zor)atics: RNA-guided DNA endonucleases discovered in eukaryotes
Patinios et al., Mol Cell. 2023 Sep 7;83(17):3046-3048.
https://doi.org/10.1016/j.molcel.2023.08.019
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“For the CRISPR Fan(zor)atics”と洒落た題の、Fanzor論文についてのスポットライト記事。Cas12aやTnpBとの比較図も。Molecular Cell誌。

8. 目的外変異の発生率が極めて低い新しい遺伝子修正法:NICER

Inducing multiple nicks promotes interhomolog homologous recombination to correct heterozygous mutations in somatic cells
Tomita et al., Nat Commun. 2023 Sep 15;14(1):5607.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-41048-5
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Cas9ニッカ―ゼで相同染色体上の特定の領域に複数のニックを導入することで、相同染色体をテンプレートとして、ヘテロ接合変異を修正する。2本鎖切断を伴わないので、オフターゲット変異は非常に少ない。大阪大学・名古屋大学らのチーム。Nature Communications誌。

9. CRISPR/CsmシステムによるRNAウイルス配列の編集

CRISPR-based engineering of RNA viruses
Nemudryi et al., Sci Adv. 2023 Sep 15;9(37):eadj8277.
https://doi.org/10.1126/sciadv.adj8277
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先週号のScience Advances誌のカバー論文。表紙の絵の通り、毛糸玉から引き出した毛糸をはさみで切断し、別の毛糸と繋げるように、RNAウイルスを迅速に編集する。CRISPR-Csm複合体(Type III-A)により、標的RNA配列特異的に正確な欠失と挿入を実現。

10. 1匹の動物の組織内で、モザイクのように細胞ごとに異なる遺伝子を編集する

Transcriptional linkage analysis with in vivo AAV-Perturb-seq
Santinha et al., Nature. 2023 Sep 20 (Online ahead of print)
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06570-y
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バーコード付加したプール型gRNAをAAVベクターで”in vivo”に導入し、成体マウスの特定の臓器内で、それぞれの細胞ごとに異なる遺伝子編集をおこすことに成功。sc-RNAseqと組み合わせ、1度の試験で多くの異なる遺伝子の変化の影響を調べることができるように。Nature誌。

11. カイコのゲノム編集で、ケブラーより丈夫なクモ糸の繊維を生産する

High-strength and ultra-tough whole spider silk fibers spun from transgenic silkworms
Mi et al., Matter. 2023 Oct 4;6(10):3661-3683.
https://doi.org/10.1016/j.matt.2023.08.013
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カイコのCRISPR/Cas9ゲノム編集で、クモの糸タンパク質の遺伝子(MiSp)の”full-length”を絹糸腺で発現させ、ケブラーの6倍も丈夫なクモ糸の繊維を生産する。Matter誌。カンダタも生前この蚕を救っていれば「蜘蛛の糸」は切れなかったかもしれません。

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