『らせんを操るゲノム編集』から学ぶ:ゲノムワールド ④ゲノムのなりたち

らせんの探求

ゲノムのなりたち

前回は、生物のゲノムの本体はDNAの塩基配列であり、半保存的複製によって保存、伝達されていくことを説明しました。ここからは、DNAの塩基配列が持つ情報が何を意味しており、またどのように利用されているかについて説明していきます。

生物の細胞は、その種類ごとに様々な形態を保持したり特定の機能を実現したりしています。例えば、皮膚の細胞は細胞同士が密に接着することで皮膚を形成し、外界からのバリアとして作用します。心臓の筋肉を構成する細胞は、細胞が収縮することで心臓を動かし、全身に血液を送り出す働きをします。こうした細胞の形質を実現しているのは「タンパク質」と呼ばれる物質です。タンパク質は、アラニン、グリシン、メチオニンなど全部で20種類の「アミノ酸」と呼ばれる物質が多数結合して作られる物質で、その種類によって様々な機能を持っています。皮膚の細胞であれば、「コラーゲン」というタンパク質が細胞に耐久性を与えて構造維持に寄与します。心臓の細胞であれば、「サルコメア」というタンパク質が細胞を収縮させ、全身に血液を送り出す働きをサポートします。動物が生きるために必要な脂質や鉄分などを体内で運搬するのも、「輸送タンパク質」というタンパク質の一種です。これ以外にも、昨今の新型コロナウイルスの流行に伴って耳にする回数が増えた「抗体」も、その正体は「防御タンパク質」というタンパク質の一種です。

このように、生物が自身の姿形や機能である「形質」を維持して生存するためには、あらゆる場面において多様な役割を担うタンパク質が必須となります。そしてゲノムの本体であるDNAは、まさにこのタンパク質を合成するために必要な情報に他なりません。

現在の生物学では、DNAは「遺伝子領域」と「非遺伝子領域」と呼ばれる二つの領域に大きく分けることができると考えられています。遺伝子領域は単に「遺伝子」とも呼ばれ、主にタンパク質の合成やそれに関わる分子の合成を担っています。遺伝子はタンパク質の設計図のようなものだと理解してください。もう一方の非遺伝子領域は、タンパク質の合成に直接的には関与しない領域のことを指します。非遺伝子領域は「ジャンクDNA」などとも呼ばれ、かつては何の役割も持たない無駄な領域であると考えられていましたが、タンパク質の合成やDNAの複製を促したり、逆に抑えたりする働きに関わる塩基配列が含まれていることが分かってきています。

上記をまとめると、DNAが持つ情報とはタンパク質の合成に関与する情報であり、このうち主に遺伝子がタンパク質の合成に関わる中心的な役割を果たしています*。なお、ヒトの場合、一つの細胞内のDNAには合計約20,000個の遺伝子が存在するとされています。

note

DNA の正体は、細胞の形質を実現するために必要な「タンパク質」に関する情報である。DNA は大きく「遺伝子領域(遺伝子)」と「非遺伝子領域」と呼ばれる二つの領域に分けることができ、このうち遺伝子がタンパク質の合成に関わる中心的な役割を果たしている。非遺伝子領域の機能は不明な部分も多いが、間接的にタンパク質の合成を調節するような機能があるのではないかと考えられている。

※この説明を聞くと、DNA 中のほとんどは遺伝子で、非遺伝子領域はわずかであると感じるかもしれません。しかし、実際はゲノム全体における遺伝子の占める割合は大きくないことが分かっています。例えばヒトの場合、遺伝子が占める割合は DNA 全体の30%ほどであり、残りの 70%は非遺伝子領域が占めています。
 
 
次回は、タンパク質の作り方を学んでいきましょう。
 

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