メールマガジン:ゲノム編集論文㉗

セツロテックでは、月に一度、最新のゲノム編集に関する情報をお届けするメールマガジンを配信しています。今回の記事では、メールマガジンの人気コーナー「最近のピックアップ論文」から厳選した内容をご紹介します。
配信号:2026年7月
1.プロモーター強化が薬剤耐性がんにおける転写の回復力を支える
Kameswaran, V., Paul, S., Le, D., Guarnaccia, A. D., Hoover, J., Chen, L.-F., Hagenbeek, T. J., Shi, M., Zhao, L. Y., Lund, J. M., Xavier-Magalhães, A., Lau, J., De Simone, M., Liang, Y., Hafner, A., Dey, A., Modrusan, Z., & Daniel, B. (2026). Promoter reinforcement supports transcriptional resilience in drug-resistant cancer. Nature Structural & Molecular Biology, 33, 1051–1061.
https://doi.org/10.1038/s41594-026-01829-0
がん細胞は、治療薬によって増殖シグナルを遮断されても、遺伝子発現の仕組みそのものを組み替えて生き残ることがあります。本研究は、TEAD阻害薬に耐性化した悪性胸膜中皮腫細胞を解析し、通常は遠く離れたエンハンサーから受ける制御が弱まっているにもかかわらず、増殖関連遺伝子の発現が回復する現象を発見しました。高解像度の3次元ゲノム解析とCRISPRによる制御領域の削除実験から、耐性細胞では一部のエンハンサーが不要となり、KLF4やFOSL1などの転写因子が遺伝子の入口であるプロモーター付近に集まり、転写を直接支えることが示されました。研究チームはこの代償機構を「プロモーター強化」と命名。薬剤耐性が、標的分子の変異や迂回シグナルだけでなく、遺伝子制御回路の再設計によっても生じることを示した研究です。今後、耐性細胞が新たに依存するプロモーター側の因子を標的とする治療戦略につながる可能性があります。
2. 女王の匂いが真社会性哺乳類の繁殖を抑制する
Khallaf, M. A., Hart, D. W., Luo, W., Murad, F., Cybis Pereira, F., Mendez-Aranda, D., Hagenah, N., Rossi, A., Bégay, V., Okrouhlík, J., Krautwurst, D., Ngalameno, M. K., Ganswindt, A., Barker, A. J., Šumbera, R., Knaden, M., Pezet, S., Woehler, A., Hansson, B. S., . . . Lewin, G. R. (2026). A queen odour mediates reproductive suppression in a eusocial mammal. Nature. Advance online publication.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10772-5
ハダカデバネズミは、女王1匹だけが繁殖し、ほかの雌は働き手として生活する、哺乳類では珍しい「真社会性」を示します。本研究は、女王に特異的に多い低揮発性エステル、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)を同定し、この物質が繁殖階級を維持する化学シグナルであることを示しました。IPMは嗅覚神経と脳の嗅覚回路を活性化し、非繁殖個体のプロラクチンを高め、プロゲステロンを抑えることで生殖を休止させます。実際、群れから女王を除いてもIPMを毎日与えると、12週間にわたり新女王の出現や争いが抑えられました。投与を中止すると攻撃行動と繁殖競争が始まり、優位な雌が妊娠・出産して新女王となりました。女王由来の匂いが、感覚系、ホルモン、繁殖、群れの秩序までを一体的に制御することを示し、昆虫の女王フェロモンに似た仕組みが哺乳類でも成立する可能性を明らかにした研究です。

