ノックインマウスとは?目的や作り方について解説

ノックインマウスとは

ノックインマウスは、特定の遺伝子配列をマウスゲノムの特定位置に挿入することができる遺伝子改変マウスです。狙った位置に発現させたい遺伝子を挿入し機能させるよう設計することが可能です。ノックイン技術は、遺伝子の発現を制御する要素を含めることも可能で、遺伝子の活動を比較的自然な状態で研究したい場合にも有効です。このプロセスにより、遺伝子の働きを体系的に理解し、その成果を直接的に疾病モデルに適用できるようになります。

ノックインマウス作製の目的

ノックインマウスを作製する主な目的は、特定の遺伝子の機能とその生物学的プロセスにおける役割を研究することです。これにより、遺伝子が正常に機能する場合と異常が生じた場合の違いを明確にすることができるため、疾患の原因や新たな治療法の開発につながる可能性があります。また、遺伝子治療の研究にも用いられ、特定の遺伝子を体内に導入することで、その治療効果を検証することが可能です。特に遺伝性障害やがんなどの複雑な疾患の研究における新たな治療法の開発を可能とするツールとしても期待されています。

ノックインマウスの作り方(CRISPR/Cas9)

ノックアウトマウスの作製には通常、CRISPR/Cas9技術などの最先端の遺伝子編集ツール(ゲノム編集)を用いられます。ゲノム編集では特定の遺伝子を標的とするガイドRNAを設計し、胚に導入されたCRISPR/Cas9複合体によってターゲット遺伝子の欠損を行います。従来のジーンターゲティング法とは異なる、このゲノム編集技術の登場により、現在ではノックアウトマウスの作製はより迅速かつ正確に行えるようになっています。

1.遺伝子の設計

研究目的に合わせて、挿入する遺伝子配列を設計します。遺伝子の機能を最大限に活用するために、プロモーターやエンハンサーなどの調節領域を含めることが一般的です。

2.ターゲットサイトの選定

1.で設計した配列を挿入したい遺伝子上の位置を決定し、ターゲットにします(ガイドRNAの設計)。

3.ドナーベクターの構築

ベクターを用いて、挿入する遺伝子配列を含むDNA断片を構築します。この過程で、後のステップで使用するため挿入遺伝子の正確なコピーを作製します。

4.ベクター導入

CRISPR/Cas9やガイドRNA、ドナーベクターを、マイクロインジェクションやエレクトロポレーションを使用しマウスの初期胚(通常は受精卵)に導入します。

5.胚の培養と移植

ゲノム編集因子を導入した胚を体外で培養し、分化が適切に進んでいることを確認します。その後、健康な雌のマウス(仮親:レシピエントマウス)に胚を移植します。

6.産仔マウスのスクリーニング

移植胚から生まれたF0産仔マウスよりDNAを抽出し、遺伝子編集が正しく行われたかをPCR、シーケンシングなどの方法で検証します。

7.次世代への伝播確認

F0産仔マウスに導入された目的の遺伝子変異(ノックイン)が次世代へ伝播するかどうか、所謂、Germline(生殖細胞)に乗っているかどうかを確認するため、F0マウスと野生型マウスを交配させ、次世代F1マウスを作出します。得られたF1産仔からDNAを抽出し、遺伝子編集が正しく行われたかをPCR、シーケンシングなどの方法で検証します。

8.ホモ接合体の作製

F1産仔は通常、編集された遺伝子をヘテロ接合体(一方のアレルが編集されている状態)で保持しています。編集された遺伝子を両方のアレルで保持するホモ接合体のマウスが必要な場合、編集されたF1マウス同士を交配させ、ホモマウスを作出します。

9.フェノタイプの解析

導入遺伝子の影響を調べるため、生まれたマウスのフェノタイプ(見た目や生理的特性)を詳細に解析します。これには、行動テスト、組織学的分析、生化学的分析などが含まれます。

注意点

オフターゲット効果

CRISPR/Cas9を使用した遺伝子編集では、まれに意図しない遺伝子領域が編集される可能性があります。したがって、産仔マウスの遺伝子を検証する際には、オフターゲット効果も検討する必要があります。

倫理的配慮

遺伝子編集技術を使用して生物を改変する際には、科学的な価値だけでなく、倫理的な配慮も重要です。特に、動物実験に関連する研究では、動物の福祉に配慮し、必要最小限の個体数で実験を行うよう努める必要があります。

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