ゲノム編集ツール開発の歴史

ゲノム編集は人工DNA切断酵素によってターゲットの遺伝子を特異的に切断し、切断されたDNAの修復過程を利用することで遺伝子を操作する技術です。その多くは細菌が自然に進化させてきたシステムを利用しています。ここ数十年の間に急速に広まりをみせるゲノム編集研究ですが、その発展にはゲノム編集ツールの開発が大きく関わってきました。これらの技術はどのように開発されてきたのでしょうか。

ZFNの登場
それまで細胞のDNA二本鎖の切断修復機構を用いて遺伝子の改変が出来ると予測はされていたものの、実際に二本鎖DNAを切断するのに用いる酵素作製には問題がありました。このような状況で1996年に第一世代のゲノム編集ツールとして開発されたのがジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)です(1)。

ZFNはDNAを認識し結合するドメインであるジンクフィンガードメイン(ZF)とDNAを切断するドメインであるFokIからなるゲノム編集ツールです。ZFNは制限酵素と構造が良く似ていることから人工制限酵素とも呼ばれます。ジンクフィンガードメインは様々な生物において転写因子のDNA結合ドメインとして働くことが知られており、1つのドメインに対し3つの塩基が結合し、複数のドメインが連結することで配列に特異的に結合させることができます。このツールでは2002年にショウジョウバエでの遺伝子改変が報告され(2)、生物個体での変異導入や遺伝子ノックインも行われるようになりました。

ところが、実際に任意の配列に対して使用できるようになるには10年以上の月日を要しました。ZFNは分子サイズが小さいというメリットを持っていましたが、対象DNA配列ごとにZFNの配列をスクリーニングするなど工数がかかり、作製費用が高額だったため研究資金の豊富な一部の企業に受託作製してもらう必要があったのです。独自作製が困難だったことから、ZFNを利用したゲノム編集研究は広がりを見せませんでした。

植物病原細菌から見いだされたTALEN
2009年、ZFNを用いたゲノム編集が出来るようになった頃、ドイツのボッホらが植物病原細菌キサントモナスの転写活性化因子様エフェクター(TALE)が繰り返し配列(TALEリピート)を持ち、DNAの一塩基を特異的に認識し結合するということを発見しました(3)。翌年には、アメリカにおいてTALEを用いた第二世代のゲノム編集ツールであるTALEヌクレアーゼ(TALEN)が報告されます(4)。

TALENでは、TALEリピートがDNAを認識し結合するドメインとして働き、そのC末端にDNA切断ドメインのFokIを連結した人工制限酵素となっています。その作製法としてREAL法(5)やGolden Gate法(6)などが確立されており、TALEリピートを含むプラスミドDNAを制限酵素で切断しリガーゼによって連結させることで比較的容易にベクターを構築できます。

2011年以降、効率的なTALEN作製法が次々と登場したことで、より容易となったゲノム編集は様々な研究者に広まりを見せます。国内においても微生物から動物や植物での遺伝子改変成功の報告がなされるようになりました。TALENにはZFNに比べ、認識配列が長く、より特異的な標的配列の切断が可能であり、作製の成功率も高いというメリットがあるためです。ところが、TALENの作製には多くのベクターの組み合わせが必要なため、実験に不慣れな研究者にとっては難しい作業が必要とされました。

汎用性の高い次世代ゲノム編集ツールCRISPR
その後、2012年にアメリカのジェニファー・ダウドナ博士とフランスのエマニュエル・シャルパンティエ博士のグループによってCRISPR-Cas9の機能解明が行われ、翌年には真核細胞のゲノム編集に利用されるようになりました (7)(8)。第一世代のZFNが発表されてから第二世代のTALENができるまで10年近く時間があいたのに対して、TALENができてから第三世代のCRISPR-Cas9が発表されるまでは僅か3年でした。

ZFNやTALENではタンパク質を利用してDNA認識や結合をするのに比べ、CRISPR-Cas9では短鎖のRNAを利用することで対象とする標的配列に結合しています。標的配列の切断にはgRNA(ガイドRNA)と複合体形成するCas9ヌクレアーゼが働いていることからRNA誘導型ヌクレアーゼと呼ばれます。gRNAの作製は容易で化学合成が可能です。ZFNとTALENの作製には煩雑な工程を要したのに対して、CRISPR-Cas9は簡便で効率良く作製することができました。そのため、2013年以降、CRISPR-Cas9は汎用性の高い新たなゲノム編集ツールとして世界中へ急速に広まっていきます。

CRISPR-Casは細菌の獲得免疫機構から見いだされたシステムであり、ウイルスなどの外来のDNAが侵入した際にDNAを断片化し自身のDNAに取り込むことでその情報を記憶するというものです(9)。これまで様々なCRISPRが発見されており、切断に必要なエフェクター因子が複数あるものはクラス1(タイプ1,3,4)に、単一であるものはクラス2(タイプ2,5,6)に分類されています。因子の少ないクラス2はゲノム編集に適しており、Cas9 (SpCas9)はクラス2のタイプ2に属します。

CRISPR-Cas9の登場によってそれまで数年かかっていた遺伝子改変マウスの作製がわずか1ヵ月程で行えるようになり、現在ではマウスやヒトといった哺乳類だけではなく、細菌やゼブラフィッシュなど様々な生物種においてもゲノム改変に利用されています。上述してきた通り汎用性の高い次世代ツールとして生命科学研究に大きな影響を与えたCRISPRですが、そんなCRISPRにもオフターゲット変異という課題が生まれます。オフターゲット変異とは、CRISPRなどの人工制限酵素が標的DNAと類似した配列を認識し切断することで起きる変異です。意図しない変異が基礎研究では得られるデータに影響及ぼし、医療における臨床応用では細胞のがん化などの問題性が指摘されています。

これからのゲノム編集
ここ数十年でゲノム編集研究は加速を続け、様々なゲノム編集ツールの開発が日々行われています。これらの技術は基礎研究だけでなく医療の臨床応用や農業などでも利用され、さらなる人類の発展に貢献すると予想されています。しかし、その一方でデザイナーベビーや生物種の駆逐など、倫理的な問題や生態系への影響が懸念されています。これらの問題は一人の科学者だけで判断できるものではありません。そのため、我々一人一人が議論を進め、皆の納得する方向へ研究を進めていくことが今後求められると考えます。

参考文献
1. Kim,Y.G. et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA,93: 1156-1160.
2. Bibikova,M. et al. (2002) Genetics, 161: 1169-1175.
3. Boch,J. et al. (2009) Science, 326: 1509-1512.
4. Christian,M. et al. (2010) Genetics, 186: 757-761.
5. Sanders,J.D. et al. (2011) Nat. Biotechnol., 29: 697-698.
6. Cermak,T. et al. (2011) Nucleic Acids Res., 39: e82.
7. Cong,L. et al. (2013) Science, 339: 819-23.
8. Mali,P. et al. (2013) Science. 339: 823-6.
9. Shmakov, S. et al. (2017) Nat. Rev. Microbiol., 15: 169-182.
10.山本卓 著, ゲノム編集の基本的原理と応用, (2018) 裳華房.

(文責:Tousei T.)

この記事の内容が役に立ったと思ったら、SNSで記事を共有ください。