アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウス

動脈硬化とは、動脈の内壁が肥厚して硬化した状態を指す。通常は無症状で進行するため、心電図や眼底検査、血圧や脈拍などでその程度を推定することになる。進行すると狭心症、心筋梗塞、虚血性脳卒中の発症につながる。いずれも致死的疾患であり、時には何の前触れもなく発症する。そのため、動脈硬化の予防は健康において重要な問題であり、生活習慣も含めて様々な観点から研究されている。

 

アテローム性動脈硬化とは

動脈硬化は、「アテローム性動脈硬化」と「非アテローム性動脈硬化」に大別できる。一般に「動脈硬化」と言う場合、アテローム性動脈硬化を指すことが多い。

アテローム性動脈硬化では、大動脈など比較的太い動脈の内膜で「プラーク」と呼ばれる隆起が形成される。プラークが成長すると、内腔が狭くなるために血流が阻害され、狭心症などを誘発する。また、プラークが突然破れると血管内で血液が固まって血栓を形成する。この血栓は血液を介して全身を流れることになり、心臓や脳の血管を閉塞すると心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす。

プラークの正体は、低密度リポタンパク質(LDL:  low-density lipoprotein、いわゆる悪玉コレステロール)、脂質、平滑筋細胞、結合組織などの集合体である。お粥のような状態であることから、病理学では「粥腫」と呼ばれる。英語ではatheromaと言うことが、アテローム性動脈硬化の由来となっている。

プラークの形成は以下のように起きると考えられている。高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、喫煙などのリスク因子が、内皮において血管拡張作用と抗炎症作用をもつ一酸化窒素の産生を阻害する。すると、内皮細胞が傷害され、白血球の一種である単球が内膜に侵入する。単球がマクロファージに分化すると、LDL、脂質、平滑筋細胞などを内膜に誘導し、やがてプラークを形成する。

一方、非アテローム性動脈硬化には、「細動脈硬化」と「メンケベルグ型動脈硬化」がある。細動脈硬化は、特に腎臓など遠位の細動脈におけるびまん性の虚血を引き起こすもので、高血圧または糖尿病を有する場合に見られる。メンケベルグ型動脈硬化は「中膜石灰化硬化症」とも呼ばれ、加齢によって中膜が石灰化し、動脈の弾力が失われることを指す。

アテローム性動脈硬化のモデルマウス

現在、アテローム性動脈硬化のモデルマウスとして多く使われいるのがApoE欠損マウスである。ApoEは、LDLやHDLなどのリポタンパク質を構成する主要アポリポタンパク質の一つである。主に肝細胞で産出された後、コレステロールを含む脂質の運搬に関与する。ApoEはLDLレセプターのリガンドとして機能し、リポタンパク質の細胞内取り込み、言い換えれば血中からの除去に寄与する。なお、ApoE遺伝子にはε2、ε3、ε4の3つのアレルがあり、そのうちε4はアルツハイマー病の高いリスク因子としても知られている(1)。

ApoE欠損マウスは1992年、米国ロックフェラー大学(Rockefeller University)のPlumpらによって作製された(2)。彼らはES細胞における相同組換え(遺伝子組換え)を用いてApoE欠損マウスを作製し、血漿コレステロール値を野生型マウスと比較した。低脂質・低コレステロール食餌で育てると、野生型の血漿コレステロール値は60 mgdlであったのに対して、ApoE欠損マウスは494 mgdlであった。さらに高脂質食餌にすると、野生型は132 mgdlの上昇に留まったのに対してApoE欠損マウスは1821 mgdlにも上った。さらにApoE欠損マウスは、10週齢ですでに大動脈、冠動脈、肺動脈でアテローム性動脈硬化が認められた。このことから、ApoE欠損マウスがアテローム性動脈硬化のモデルマウスとして使われるようになった。

また、LDLレセプター欠損マウスもほぼ同時期に作製された(3)。LDLレセプター欠損マウスの場合、低脂質食餌ではコレステロール値が250 mgdl、高脂質食餌では900 mgdlと、ApoE欠損マウスと比較するとややマイルドな数値であるが、やはり早い段階からアテローム性動脈硬化を発症する(4)。

睡眠不足もリスク因子となる機序

アテローム性動脈硬化のリスク因子には高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、喫煙が知られているが、近年睡眠不足もリスク因子になり得るとする報告が、米国マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital )のMcAlpineらによってなされた(5)。

ApoE欠損マウスを飼育するケージの中に、自動で駆動するバーを設置してマウスの睡眠を阻害すると、野生型と比較して単球の増加とアテローム性動脈硬化の病変拡大が認められた。このマウスでは、脳の視床下部において覚醒を調節する神経ペプチド「ヒポクレチン(オレキシンA)」の産生量および血中濃度の低下も観察された。ヒポクレチン欠損マウスにおいても単球の増加とアテローム性動脈硬化の病変拡大が認められ、このマウスにヒポクレチンを投与するとアテローム性動脈硬化が軽減した。

ヒポクレチンは、マクロファージコロニー刺激因子1(CSF1)の産生を抑制するが、ヒポクレチンレベルが低下することでCSF1が増加し、単球をはじめとする炎症性細胞の増殖を誘発する。以上のことから、睡眠不足によってヒポクレチンの産生量と血中濃度が低下し、CSF1が産生されて単球が増加することでアテローム性動脈硬化が誘発されると示唆される。

 

参考文献

  1. Jansen WJ, et al. Prevalence of cerebral amyloid pathology in persons without dementia: a meta-analysis. JAMA. 2015;313(19):1924-1938.
  2. Plump AS, et al. Severe hypercholesterolemia and atherosclerosis in apolipoprotein E-deficient mice created by homologous recombination in ES cells. Cell. 1992;71(2):343-353.
  3. Ishibashi S, et al. Hypercholesterolemia in low density lipoprotein receptor knockout mice and its reversal by adenovirus-mediated gene delivery. J Clin Invest. 1993;92(2):883-893.
  4. Merat S, et al. Western-type diets induce insulin resistance and hyperinsulinemia in LDL receptor-deficient mice but do not increase aortic atherosclerosis compared with normoinsulinemic mice in which similar plasma cholesterol levels are achieved by a fructose-rich diet. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1999;19(5):1223-1230.
  5. McAlpine CS, et al. Sleep modulates haematopoiesis and protects against atherosclerosis. Nature. 2019;566(7744):383-387.

この記事の内容が役に立ったと思ったら、SNSで記事を共有ください。